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 16.



何を考えてんだか分からない時は憂鬱だった存在が、少しだけでも心が見えた瞬間そんな気持ちが解かれていくだとか。

今まで見えて無かったものがどんどん見えて来て、アタシはずっと損をして過ごして来たのかな、なんて。だけどどうせなら知らないままの方が楽だったのに。知ってしまうと知らないままでなんて居られないじゃん、抵抗したくなる。無意味だとしても。


dear.
bet.16 限界を感じる今


『………………』

「………………」


アタシが光を好きだって言ったばっかりに蔵の顔にはずっと眉間にシワが寄ってて。それを面白がるみたく相変わらずベッタリ身体を寄せてくる光はニヤニヤ笑って、だからって嫌々振り払う気にならないのは蔵とは違う感情だとしてもやっぱり光が好きだって、気を許してる証拠。


『な、なぁ、白石が怒ってるんやし財前は名前から離れたらどうや?』

『謙也先輩には関係無いすわ』

『そ、そやけど…!』

『謙也、無駄話はええから筋トレしとき』

『お、おお…』


とばっちりはこっち来る、迷惑も良いとこだって顔してるくせに大人しく背中を向ける謙也に笑っちゃいそうで必死に堪えてると、漸く蔵がアタシと眼を合わせた。


『名前ちゃん、財前ん事ほんまに好きなん?』

「うん好きだよ」

『……………』


クックッ、耳には愉快に溢れてそうな喉で笑う声が聞こえる反面、視界にはこの世の終わりみたいな絶望感に溢れた顔。対照的過ぎる2人にまた笑いそうになるけどアタシが笑うより、そろそろ蔵の笑う顔を見たいから。嘘は吐いてないけどアタシの気持ちを伝えるよって、蔵の頬っぺたに手を伸ばした。


「アタシ、光好きだけど蔵が好きだよ」

『名前ちゃん、』

「言ったじゃん。蔵が好きって思うよりアタシのが好きだって。まさか信用してないの?」

『し、信用してへん訳ちゃうけど急に、財前が好きやって聞くと…自分やない違う男やねんもん…』

「蔵って心狭いよね」

『そういうとこで心広く居ろうなんて思わへん』


今度は眼を逸らして拗ねた態度で、多分頭では分かってるんだけど心は付いて行かないってやつ。蔵がどれだけ独占欲が強いのかは分かってるし、蔵の言う事も一理ある、それだって分かってる。だけど笑ってくれないのは気に入らない。アタシがムカつくくらい余裕で幸せそうに笑ってなきゃ、らしくないじゃん。


「蔵、」


頬っぺたに重ねてた手に力を入れたら、無理矢理にこっちへ向かせて。
初めて、アタシから蔵に口唇を合わせた。


『―――……』

「……アタシがこういう事したいって思うのは蔵だけだよ、本当に分かってんの?」


一瞬瞠若を見せたけど直ぐにふっと吹き出して声を上げて笑うのは、上からの物言いなくせに外方向いて耳まで赤くなってるアタシが面白いから、なんだと思う。


『財前見たやろ、これが愛やで愛』

『その単純思考、めちゃくちゃ鬱陶しいすわ』

『なぁ名前ちゃん、俺も同じやでこういう事したいのは名前ちゃんだけや』

「知ってるし!っていうかそうじゃなきゃ許さないし!」


やっぱムカつく、余裕出来た途端アタシの顔中にキスしてきて自分のが優位みたいな。
アタシが言った台詞取らないでよ、アタシがした事真似しないでよ、裏腹な文句を浮かばせながらそれでも蔵が笑ってくれて安堵してた。こんなめちゃくちゃな性格してるアタシの事、ちゃんと解ってくれるのはこの人だけなんじゃないかなって、本気で思った。


『楽しそうなとこ悪いねんけど』

「、」

『オサムちゃんどないしてん』

『名前、ちょっと良えか』


だけどそんな安堵も打ち壊すようなオサムちゃんの真顔は有無を言わせなくて、光と蔵の腕からするりと抜けて引っ張られる様な感覚でそっちへと走った。
話したい事、それが何なのかは容易に理解出来て、分かるからこそ口にしないで欲しいって。なのにオサムちゃん向けて走ったのは蔵に聞かれたくないから。


「何?朝のこと?」

『ほんまに大丈夫なんか?』

「大丈夫に決まってんじゃんただのサボりだもん」

『…嘘は吐いてへんな?』

「あーもう鬱陶しいなぁ!嘘じゃないって」

『それなら良えわ』


オサムちゃんの気持ちは嬉しいよ、嬉しいけど…やっぱり口にするなんて卑怯だよ。アタシの時間はもう無いんだって言われてるみたいじゃん。


「オサムちゃん、蔵には、」

『分かっとる。言わへんから安心し』

「………………」


真面目な顔だから余計に嫌だった。授業サボるなんかどんだけ偉いんだって笑い飛ばして欲しかった。


「もう、十分楽しんだかな…」


刻々と迫るタイムリミットは、多分直ぐそこまで来てる。


(20100510)

蔵からメール(空メすると届きます)


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