dear. | ナノ


 


 15.



泣く時は殆ど1人だった。親やキョーダイの前で泣いたとしても友達の前でなんて幼稚園以来ないし、況してや彼氏の前でなんて。
男と女の関係にしたって初めてだとか純情なことはない。何度も何度も何人もの人と迄は言わないけど綺麗なままじゃなかった。

だけど感動したの。
あの人の前で自由に情感を見せられることも、抱いて貰えたことも、アタシには幸せ過ぎてずっと泣きたいくらいだった。これが、感慨無量ってやつなのかな。


dear.
bet.15 ラヴとライク


日頃繕った仮面のお陰あって、急に体調不良になったアタシと付き添ってくれた白石君。教師は何も言わず心配だけ見せて納得したようだった。
まぁ当然て言えば当然だけど?大人なんて子供以上に単純なんじゃないって。

だけどそんなどうでも良い話しは忘れて、あれからずっとアタシの脳内は蔵に触れられた肌だけに意識を向けてた。純情じゃない、そう思ってたけど蔵は特別。近付く度に調子も心臓も狂わされる。
そんなの素直にそうですなんか絶対言いたくないけど本音はソレ。だからこそヒソヒソと浸ってたって言うのに。


『名前先輩』

「……どうかした?財前君」


部室に行くなりねっとり、タコの吸盤でも付いてんのって聞きたくなるくらい密着して離れない光って。あれですか空気読めない男ですか、うーん違うね、敢えて読まないんだよね。アタシが良い性格してるって思うくらいだもん、めっっちゃくちゃ性格悪いよこの男。


『俺ビョーキみたいなんやけど』

「それは大変」

『先輩のせいやで?名前先輩が俺を引っ掛けるから』

「引っ掛けるって、そんな…」

『これだけ惚れさせといて忘れたフリは無いですわー』

「財前君。そういうお話しは恥ずかしいから2人でさせて欲しいな」


本っ当、まじで嫌な男!
なんなのアタシが皆の前じゃ大人しいからって調子乗り過ぎ!蔵が職員室行ってるから良いものの本人居たらまた嫉妬され………、るのは良いんだけどさ。嬉しいし?
兎に角、黙ってらんなくて光を連れて部室裏へ回った。


「ちょっと何なの?っていうか何?」

『クックッ、ほんまギャグすわその変わり身』

「うーるーさーい」

『やっぱそっちんが可愛えすわー』

「黙れよぴかる」


壁に凭れながら腰を下ろすと、光も隣に座ってアタシの肩に頬っぺたまで乗せてくる。別に気持ち悪いとは言わないけどやっぱり違う。ドキドキは、しない。


「っていうかさ、何でそんなアタシの事気に入ってんの?」

『おもろいし』

「アタシは鬱陶しいんだけど」

『それそれそういうんが好きなんですわ』

「……エムっ子?」

『に見えます?』

「見える訳ないじゃん…」

『正解』


つまりはアタシを玩具の対象にしてる訳でしょ?そういうキャラってアタシなの!アタシと被ってんの!楽しそうに頬っぺた突かないでってば!


「光と居ると煙草吸いたくなる」

『良えんちゃう?別に』

「約1名煩い人が居るんで」

『ほんまに好きなん?』

「なにーどういう意味?」

『お互い遊びちゃうかって。まぁ部長はどう見ても本気やねんけど』


ツンツン突き刺さってた人差し指が治まればまたアタシの肩に顔を埋めて、声色がほんの少し、落ちた気がした。


「本気、に決まってんじゃん」

『そうなん?』

「多分アタシのが好き」

『何で?』

「…アタシを放っておいてくれないから、かなぁ」


自分で言ってて恥ずかしくなる。仮面を被ってからなら何を言ったって楽しいで済むのに。
だからって嘘は吐きたくない。蔵に対しての想いだけは嘘吐きたくなかった。蔵本人を前にしても光相手だとしても、好き、だけはちゃんと伝えたい言葉だったから。


『部長より先に知ってたら俺やって放っとかへんかったのに』

「真面目な声で何言ってんの」

『何で俺に見せてくれへんかったんや阿呆』

「ちょっと、どしたの…」

『どうもこうもほんまの気持ちっすわ』


遊んでるだけじゃん?
ほんまの気持ちって、遊んでる訳じゃないの?


『1番に俺と出会って欲しかったのに』


そっか、アタシと光は似てるんだ。言いたい事は全て口にするところも、少し不器用なところも。
だからね、アタシは、


「      」

『え、――……』


『こら!財前!』

『……何です部長』

『俺の名前ちゃんに手出すの止めてくれへんかなぁ?』

『まだ出してへんし空気読んで欲しいんやけど』

『俺の台詞やわ!名前ちゃんもう大丈夫やで?』

「っていうか大丈夫も何もアタシ光好き」

『え?』

「バレた時は面倒臭いって思ってたけど光好きだよ今は」

『ちょ、言うとる意味が理解出来ひんのやけど…』

『フラれたっちゅう事やろ部長』

「違うし!蔵はもっと好きなの好き!」

『名前ちゃん…』


光から奪うみたく飛び付いて来た蔵は好き、大好き。
でもね、

“アタシは蔵に出会いたくなかったよ”

これも本心。嘘を吐く訳じゃなくて、ただ言いたくなかった言葉を声に変えたのは光が、似てたからなんだと思う。深く問われたならきっと何も答えられなかったし、タイミング良く現れてくれた蔵は流石アタシの好きな人だって。


(20100502)

蔵からメール(空メすると届きます)


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