dear. | ナノ


 


 14.



俺は好きな子の泣き顔なんや見たくないし、そんな顔させへん様に大事にしたるって思ってた。
せやのに早速泣かせてしもて、これが不甲斐ないとか言うんやろか。

せやけど…初めて見た涙は可愛くて、また見たいなぁなんて思うのは勝手な話しやんな。泣かせたくないのに。
女の子は我儘やって言うけど男やって十分身勝手な生き物やと思った。


dear.
bet.14 独占欲


「、え?」

『だから、光にバレた』


オサムちゃんはともかく、2人だけの秘密やと思ってた彼女の本当の顔が財前に知られたって?せやから財前はあんな負けん気で居ったっちゅう話し?

口を真一文字にして不満をぶつける様にテニスコートを見下ろす彼女やけど、俺やって…。
名前ちゃんを知ってる財前とか気に入らへん。


「……名前ちゃんから見た俺って、どんなん?」

『、どしたの急に』

「皆から見た名前ちゃんは内気で大人しくて優等生や。せやったら俺はどうや?」


一見話しすり替えられたって感じで何処からそんな話しが出て来たんや、そんな怪訝を見せられるけどちゃうねん。
財前に、嫉妬してるからこそ、やねん。


『…蔵だって真面目で優等生じゃん紳士って感じ?小言多いけど』

「…そか」

『だったら何―――、』

『今は、優等生も紳士にもなられへん』


嫉妬に理性を失うただの男や。
彼女を自分だけのモノにしたくて仕方がない。
この口唇も、眼も鼻も手も全部俺のんやって。


『、授業サボる、ってこと…?』

「逃げたいなら逃げて。追い掛けへんから」


言葉とは裏腹に彼女の腕をしっかり掴んで、離さへんて言うみたく口を重ねてやる。離しては直ぐにまた重ねて、その度に理性は音を立てて崩れてく。
なぁ、俺はもう、止まれへんけど良えの?


『逃げたい、って思ってたら、初めから蔵に関わって無いのに…』


そんな言い方卑怯だよ、
今度は彼女から口唇を押し付けられて、それを合図に緩んでしまいそうな筋肉を締めて首へと葉を宛行った。昨日より幾分薄くなった赤色に、もっと色を付ける様に噛み付くと少しだけ満たされた気がして。
せやけどそれでも足りひん。彼女が全てが欲しい、彼女の全てを知りたい。

白く煌めく青い景色と過ちを知らせる様なチャイムを背負って、俺は彼女を抱いた。


『……蔵?』

「うん?」

『ヤった後って、何か間抜けだよね』

「こら。女の子がそういう事言わんの」

『だってー!』


中途半端に乱れた服もそのままに屋上で寝転んだ彼女は幸せそうな顔で引き笑いしてた。呆れ顔で彼女を映す俺やって、ほんまは幸せで幸せでどうしようも無いのに、そんな顔されるとつられて引き笑いしてしまいそうになるやろ?

初めてが学校の屋上で、それも朝から授業サボってとか彼氏としても男としても面子丸潰れっちゅうか台無しやのにどうでも良くなってしまう。


「ほら、制服直したるから起きて」

『蔵って本当お母さんみたい』

「お母さんはこんな事せえへん」

『確かにー』


制服のボタンを止めながら頬っぺたにキスを落として、もっともっと好きが伝われば良いなって。
俺が愛を伝える度に笑ってくれるその顔が、めっちゃ好きやねん。やっぱり泣いてる顔より笑った顔が好き、結局そこへ行き着く。


『アタシ、蔵と居るとずっとこんな時間が続く気がする』

「、続くやろ?」

『……うん。だと良いな』

「……………」


それは彼女か俺かが心変わりするんやとでも言いたかったんやろうか。当然、俺は彼女から離れる気は無いし況してや好きじゃなくなる、なんか想像つかへん。
寂しがり屋な彼女やからこその杞憂やと思ってたけど、何や、何かが引っ掛かった。


(20100426)

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