dear. | ナノ


 


 12.



拗ねて怒った声で「帰る」って言っても慌てた様子なんか見せなくて、「付いて来ないで」って言ってみせても余裕顔でこっちに用事あんねん、て。

少しくらい慌てたり焦ったり動揺したって良いのにご機嫌は崩れなくてもっと拗ねたくはなるけど。でも、本当はアタシだって怒ってる訳じゃなくて嬉しいのに恥ずかしい、幸せなのに照れ臭い、そういうのを見透かされてるから、アタシの事解ってくれてるからこそ好きになったんだと思う。


dear.
bet.12 隠した、絆創膏


「おはよう白石君」

『、……おはよう』


せっかく迎えに来たのに何で、そう言いたそうな顔してたけど同じ制服を着た人が横切ると納得したみたいで。それでも少し不満は残ったところを見ると優越感ていうか。


『朝一番に名前呼んで欲しかってんけどなぁ』

「呼んだじゃん白石君て」

『ちゃうやろ?』

「本当細かい男だよね蔵って」

『名前ちゃんも相変わらず憎まれ口は変わらへんねんな?』

「そこが可愛いところなんです」


なんてね、調子に乗って冗談言ってみただけなのに、


『痛いくらいに分かってます』

「……………」

『減らず口、憎まれ口叩いてこそ愛を感じんねんなぁ』


不満は何処かに消えたらしく満面な顔しちゃって。昨日から一晩開けてやっとアタシも“普通”に出来るのに何、やっぱりムカつくんだけど。


「何なの蔵ってM?超気持ち悪いんだけど!」

『俺はどっからどうみてもSやろ?』

「…………」

『せやけど気持ち悪いは言い過ぎやんなぁ?』

「ちょ、」

『口で言うて分からん子には身体で教えたらなな?』


何を返せば少しは落ちてくれるんだか。今日もまた人目憚らずに頬っぺたにチューって吸い付いてきたりさ、アタシが学校で良い子ぶってんの本当に分かってんの?
『あんな子だったんだ意外ー』とか言われたらどう責任取ってくれんの!


『うーん?また文句言いたそうな顔や』

「文句ならいっっっっぱいあるけど1個ずつ言ってたら陽が暮れるから止めとく」

『アハハッそっか、にしてもつ多かったなぁ』

「誰かさんのせいで入れたくもなるってば」

『誰やろか』

「ばーかうるさい変人!」

『はぁ…またそんな風に言うて、』

「じゃあ白石君、早く学校行こう?」

『……………』


当然ながら歩く度に同級生や後輩が増えて、それが視界に入ればスイッチの切り替えは怠んない。変わり身の早さには脱帽や、とか、蔵の厭ーな性格に比べればマシじゃんね。アタシなんか可愛いもんだって。


『ほな、俺は先に職員室寄って部室行くからな』

「ゆっくりで良いよ!」

『よう言うわ』


鼻をぎゅっと捕まれて、早よ戻るからってまた頬っぺたにキス。昨日散々逢いたいとか甘えたこと言った手前、既に何言ったって無駄っていうか。どんなことを口にしても全部が全部愛で返してくる蔵に、随嬉は隠せない。


『っちゅうか、ソレも可愛いねんで?』

「、」

『お陰で今日も惚れ直したやん』
「う、うるさいよ変態!早く行って来てよ!」

『ハハッ、行って来るな』


トントン、と自分の首に人差し指を当てる意図は勿論アタシの首に貼られた絆創膏のせい。昨日のキスマークをそのまんま皆にお披露目するのもどうかなって貼ったけど…古典的過ぎた?惚れ直したとか、幸せオーラ出さないでよね、こっちまで伝染りそうになるじゃん。
…だけどそういう幸せに慣れるのも怖い、とか。
嬉しいのも幸せなのも、当たり前にはしたくない。ずっと新鮮で、ずっと笑ってたいから。


「……なんて馬鹿みたい、」


浸ってる自分が最高にキモくて笑えない。こんな時は今までだったら煙草吸ってたんだけどなぁなんて、いつからか減らなくなった煙草の箱を取り出した。


「結局いつからだっけ」


口煩いお陰でリアルに禁煙しちゃってるよアタシ。蔵って凄過ぎだし、やっぱそれだけ変なんじゃないの?変人変態てのは強ち間違ってないっていうか結構本気で言ってるんだけど伝わってんのかな。
久しぶりに吸いたいなぁって気持ちは全く無くなった訳じゃないけど今は止めようって、箱を鞄に戻そうとした時だった。


『フーン』

「、」

『やっぱり何かあるって思ってた』

「ざ、財前君…?」

『名前先輩て煙草好きなんや』


まさか。
アタシが墓穴掘るなんてあり得ない。


「えっと、これはお兄ちゃんの悪戯で、本当困るよねこういうの…」

『今更繕う必要ないすわ、部長にキモいキモい言える根性あるんやし?』

「………………」

『それ、』

「、いだっ」

『部長からの首輪のつもりなんです?』


似合てますよ優等生より。
絆創膏をピッと剥がした財前君は楽しそうに笑ってた。

……どうしよう。


(20100320)

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