dear. | ナノ


 


 10.



一緒に帰ろう、その言葉が無くとも眼でソレを伝えてくれる彼女は愛しくて、返事の代わりに手を握れば拗ねたみたいに口をへの字に曲げるから、照れ隠しなその顔がまた俺を“好き”の言葉で狂わした。

素直が1番やって思ってたけど、遠回しな素直さが今は1番好きやと思った。


dear.
bet.10 本当は逢いたい、


「名前ちゃん、今日も1日お疲れさま」

『なに急に…』

「禁煙と女優。あ、禁煙はまだこれからが問題やなぁ」

『家から自由だもんね煩い煩い白石君も居ないし!』

「フーン?とか言うてほんまは寂しいんとちゃう?」

『そんな訳無いし!白石君てほんっっと鬱陶しいよね』

「ハハハッ、ソレも大分慣れたけどやっぱり傷付くなぁ」

『傷付いてるくらいがちょうど良いと思いまーす』


部活が終わるまで、さっきのさっきまでは『白石君、何かアタシに出来ることあるかな?』なんて別人やったのに。こうも人って変わるもんなんやなぁとか、今でも思う。そういうしおらしいとこも可愛いけど、悪態付きながら絡めた手に力を入れてくるとこがもっとツボや。
俺的には『鬱陶しい』が『好き』に聞こえるんやけどどうなん?


「ほな、後で連絡するからちゃんと禁煙するんやで?」

『はいはい出来る様に頑張りますぅ』

「はいは1回でええねんで」

『はいはーい』

「こーら。怒って欲しいん?」

『白石君のお説教とかもう飽きたし!』

「せやったらちゃんと“はい”って言わなあかんやろ?」

『細かいんだけど!』


名前ちゃんの家の前に来たって悪態は変わること無くて。もう別れなあかんのやから最後くらい普通に『バイバイ』してくれてもええのになぁ?それでもやっぱり手は離さへんから可愛くて可愛くて、めっちゃ可愛くてしゃーないねんけど。


「名前ちゃん、」

『え、…………』

「また明日」

『……どこの韓流スターなのって言う…』

「うーん?名前ちゃんの手が好き過ぎて」

『格好良いとか言ってあげないかんね!』


いつまでも繋いだままの手を見ると、俺より一回り二回り小さい手にもっと触れたくなってん。絡めた手を口唇に持って行ってわざとらしく音を出せば彼女は恥ずかしそうに、せやけど眉間に皺を寄せて呆れた顔を見せた。

格好良いとか言わへんて、既に格好良いっちゅう単語が出てんねんけど。思わず笑ってしまいそうになったけど黙っとこかって。口にしたら怒らせてしまいそうやし?


「ほな、俺も帰るから」

『…白石君』

「うん?」

『送ってくれてありがと!』

「――――…いいえ。あ、」

『え?』

「飴、今日の分3個」

『、』

「今度こそまた明日な?」

『うん…また明日』


幾ら素直やなくても大事な言葉は言える、そこが彼女の厭らしいとこ。悪い意味の厭らしいやなくてまんまと男心が翻弄される。

あーあ、いっそ最初から彼女の事を知ってたなら今頃もっともっと思い出と好きが増えてたのに時間が勿体ない。ほんまは学校が終わって、家に1人で居る時間が退屈で、ずっと名前ちゃんの隣に居りたいねん、叶うなら離れたくない。離れた時間なんや必要無い。


「恋は盲目っちゅうやつ?」


彼女しか見えへん、他がどうでも良くなるくらい夢中にさせられてどないしたらええねん、て。自宅へ向かいながらも終始、名前ちゃんを考えて、名前ちゃんを想って、阿呆みたいに恋心を抱いてた俺は帰宅するなり早速携帯の発信ボタンを押した。


「しょっちゅうしょっちゅう電話し過ぎやろか?」


電話代を見るのが怖いけど、もう彼女の携帯が俺で埋まれば良い。なんて通話を待った。


「あ、もしも………、」


トゥルルル、コールが6回くらい鳴ってからやろか。彼女が通話ボタンを押してくれかと思うとブチッと切れた発信。間違えたんかと思っても、折り返しメールも電話も来おへん。仕舞いには電源、切られた?


「……………』


俺、何かしてしもた?
せやけど普通に別れたやんな。ほな何で避けられるん?何で避ける理由があるん?
今の一瞬で、俺ん事嫌になった?鬱陶しいがほんまになった?

不安っちゅうか焦燥っちゅうか…とにかくモヤモヤが取り巻いて心臓がドキドキ煩くて、このまま黙って明日を迎えることなんか出来ひん。もう一度発信ボタンを押しながら、俺は家を飛び出して来た道を戻った。


《もしもし?》

「、名前さんのクラスメイトの白石と言います、名前さんはご在宅でしょうか?」


繋がらへんなら携帯に掛けたって意味は無い。迷惑は承知で、彼女の家に電話を掛けると一度耳にしたことのあるお兄さんらしき人が電話を取ってくれた。


《名前?あーちょっと待って》

「はい、すみません」

(名前、男から電話)

(男って?白石君?)

(多分それ)

(え、アタシ居ないって言って!今からコンビニ行くし!留守留守!)

(はぁ?)

(良いから早く!)


保留にならへんかった電話は後ろからヒソヒソ声が俺に届いた。何でそこまでするん?急に、何でなん?
ショックは隠し切れへんけど、方向転換して俺の足もコンビニへ向けた。


《もしもし?名前居ないんだけど》

「あ、はい、すみません」

《じゃあ》

「失礼します」


電話するべきやなかった。あんな会話聞きたくなかった。
携帯を握り締めて後悔を噛み締めるけど、そういう問題ちゃうねんて…彼女に会うて、彼女の口から本心を聞くまでは諦めきれへん。もし名前ちゃんが俺に愛想尽かせてたんやとしても、多分止まらへんけど…。

こんなに好きやのに何があかんかったんやろ、何が彼女をそうさせてるんやろ、疑問という哀感を巡らせながら彼女に会えますように、コンビニへ走った。


「あ…、名前ちゃん!」

『、』


反対から歩いて来る姿はいつか見た派手な容姿にジャージで。近付いた筈やのに、また遠くに行ってしもた気さえした。


『…し、白石君…何で、』

「それはこっちの台詞やで」

『……………』

「何で俺ん事避けるん?理由教えてくれへんか?」


ほんまはな、聞きたくない気持ちもあんねん。はっきり『キライ』って言われたら女々しいけど、立ち直れんと思うから。せやけどこのままでええ訳無いやろ?せやから、ちゃんと、説明して欲しいねん。


『な、何のこと?』

「お兄さんとの会話も聞こえてた。居留守使う理由が聞きたいねん…」

『き、聞いてたの!?』

「あんまり聞きたくない話しやってんけどな」

『…ごめ、』

「謝らんでええから、説明してくれるか?」


何て言われるんやろう。
何を告げられるんやろう。
ドキン、ドキン、心臓は張り裂けそうなくらい収縮してた。


『…電話、したくない』

「……何で?」

『……………から』

「え?」

『、声聞くと会いたくなるから聞きたくない!』


心臓が、止まった気がした。


『メールすると電話したくなるし、電話すると会いたくなるし、そんなの言いたくないから…馬鹿みたいだし子供みたいだし、我儘だし…』

「……………」

『し、白石君ならそれくらい察してよ!!それに飴だって3個じゃ足りないし…!』


それは、俺が嫌とかキライとかやなくて?寧ろ、逆、っちゅうことやんな…?
飴も、ほんまは足りひんから“渡しに来て欲しい”っちゅうことやろ?


「……はは、」

『、』

「アハハハッ!」

『な、何笑ってんの…!』

「ごめん、俺てっきりフラれるんか思ってたから」

『フラれるって!フる訳無いじゃん!アタシのが好きって言ったの忘れたの!』

「せやな言うてくれたやんな」


あかんて。めちゃくちゃ愛されてるんやんか。
幸せ過ぎて腹の底から笑った気分や。


「せやけど1個間違うてる」

『何が?』

「俺のんが好き」

『、だからアタシのが好きってば―――』


昼間と同じ会話を繰り返して、飽きもせんと好きを伝えて。言葉だけや足りひんから彼女をぎゅっと包んでやった。


「そういう我儘は聞かせて欲しいねん。俺は24時間ずっと名前ちゃんに逢いたいと思てるから、いつやって走るで?」


どんな言葉を並べても俺の愛を伝えるには物足りひんけど。胸に顔を埋めた彼女の、最上級の愛の返事は『公衆面前だから』ってやっぱり聞いた言葉が返ってきて笑ってしもた。


(20100303)

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