彼女の隣に居るのは俺であって欲しいし、そう言うたらいつも隣に居りたいっちゅう意味に繋がった。
置いてきぼりでもくらったみたいに切なくなるんは俺が小さいんやろか。
dear.
bet.9 離れられない
部室を出て行く彼女を見送ると物凄い脱力感が襲ってきた。自販機までって言うただけやのに一生の別れみたいに大袈裟に思えて。視界には常時名前ちゃんが居てくれな嫌なんやって改めて知った。
『うーん』
「何や謙也」
『白石が名前ん事好きなんは知ってたけど』
「………けど?」
『名前が白石ん事好きなんはビックリしたっちゅうか』
一言目で謙也が言いたいことは想像出来たけど改めて言われるとめっちゃ腹立つねんな。言うとくけど告白は名前ちゃんからしてくれたんやで。俺もタイミング図って言おうと思てたのにまさかあん時言われるなんや無いやろって。
名前ちゃん、スッゴい顔してたのにめちゃくちゃ可愛かったし。息だけで好きとか、卑怯やわ。お陰でときめいたっちゅう話し。女の子ってこんな可愛い生き物なんやなって名前ちゃん見て幸せになれた。せやけど…
「謙也」
『し、失言やったとは思うけど殴るん無しやで…!』
「名前ちゃんてどんくらい俺ん事好きなんやろ」
『へ』
「ほんまなんかな」
『は』
「俺はほんまに好きやねんけど」
これまでに無いくらい歪み切った謙也の顔は傑作とも言える気がしたけど、せやけど俺は考えれば考えるほど不安も比例してた。
やってそうやろ、二言目にはウザイとか鬱陶しいとか言われてたのに。そらそんな事言いながら口元が緩んでたのも知ってるし、本気で放って置けって言うてるんやないのも分かってた。
せやけどなぁ……、携帯開けて発信ボタンを押してしもたんは不安と寂しさが手を動かしたからやねん。
《白石君?》
「うん」
《うんじゃなくてどしたの》
「遅いなぁ思って」
《まだ3分しか経ってないけどまだカップラーメンしか出来てないくらいだけど》
「ハハッ、ええなその喩え」
声が聞こえるだけで顔も身体も全身が綻んでく感じや。何でこんなに好きなんやろ、いつからこんなに好きになったんやろ、自問したいのは山々やけど今はそんな事ええか。
彼女との時間が1番やから。
《ウケてくれたなら良かったけどさ、もう切って良い?》
「あーかーん」
《煙草なら吸わないしもう戻るから》
「ダメ」
《何ー?何でダメなの!》
「世の中には悪い男がいっぱいやねん」
《白石君のこと?》
「俺はええの」
《っていうか校内で悪いも何も》
「名前ちゃんやって分かっとるやろ?自分がめっっちゃモテることくらい。俺はその分めっっちゃ心配んなってめっっちゃ嫉妬すんねんで?」
素直に思うことやけど所詮は言い訳で、何をしててもいつも傍に置いておきたいだけ。隣に居らせて欲しいだけ。
こんな愛は重たいやろか。
『白石君て独占欲で構成されてたのー?』
「――そうかもしれへんな」
まぁ、どんなに重たいって思われたって何度ウザイって言われたって離れる気も離す気も更々無いねんけどな。
その気持ちを見せる様に、ブラックコーヒー片手に戻って来た彼女をぎゅっと抱き締めた。
『な、なに…!』
「うんー?無事に帰って来たお祝いやで」
『み、皆見てるから、恥ずかしいよ白石君…!』
「今は見せ物にしとこ?」
『ちょちょ、ちょっと…!』
相変わらず演技派で途端しおらしくなった彼女に笑ってしまいそうやったけど、これもこれで可愛いから有りかなぁて、二重得した気分の俺やった。
ほんま好きやねんけどどうしたらええ?
(20100219)
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