08.
好き、
好きの意味って?
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lb.8 ガッツポーズ
『なぁ名前ちゃん』
「は、ははいっ」
『ククッ、そんな賢まらんでええのに』
身体中の火照りを隠せないで挙動不審になるアタシを、白石君は楽しそうに微笑んでみせる。
でも賢まりたくなくても白石君の一言一言がアタシに緊張と幸せを届けてくれるから…、笑って流せる訳無いじゃんか!これが白石君じゃなくて不っ細工な男なら別だよ、冗談じゃないって水でも何でもぶっかけて帰るとこだけど。
白石君が相手となれば、こうして向き合ってんのも申し訳なくなるくらい、別世界の人を思わせる。
『ほんまはな、この店ってカップル限定なんやで』
「へぇそうなん…だっ!?」
『アハハッ!良え反応やわ』
「だ、だって、白石君が突然変なこと、」
『やったら良いのに、っちゅう例え話』
「………………」
って事は?アタシを単にからかっただけだって?
ちょっと白石君、人が悪いってば。白石君がそういうつもりでアタシを連れて来たんだって期待しちゃったじゃんか…持ち上げといて下げるだとか悪趣味だと思いません?
『友達、やなくてそう見えてたら俺は嬉しいから』
「、え?」
『俺は気の無い子を誘うなんや器用な事出来ひんし』
「……………」
『名前ちゃんの心がこっちに向いてなくても、周りが勝手にそう思ってくれてたら少しは幸せやねんなって』
たけど落とすだけじゃなくて期待通りの言葉を貰ったら文句なんか言えない。
白石君がストローで揺らすブラックに溶け込む氷みたいに、アタシだって溶けたくなった。アタシはもう、きっと白石君に向いてるのに。こんな人を前にして堕ちない方がどうかしてる。
『大分暗くなって来たし、そろそろ出よか?』
「う、うん」
『心配せんでも送り狼にはならへんから』
「そ、そんな事思ってないし、」
『クックッ、そうなん?』
本当は狼になって欲しいし、まだ帰りたくない。言葉には出来ないけど伝わって欲しい、それって我儘?
でも、それが本音だもん、白石君と離れたくないんだもん。
「はい」
『、』
「俺の左手が寂しいー言うてるから手繋いだってくれへん?」
『…良いの?』
返事の代わりにニッコリ笑ってくれたら透かさず指と指が絡まって。カップルぽい。っていうかどっからどう見たってカップルだし!
このまま世の中の女の子に「この人がアタシの彼氏です」って鼻高々に自慢してやれたら…きっと誰もが羨ましい眼で悔しい思いをするに違いないね。これぞ勝ち組じゃん、そんな妄想を広げてると、
『名前ちゃん、お願いがあるんやけど』
「お願いって?」
『俺ん事好きになって』
「え、」
『好きで好きで堪らへんっちゅうくらい惚れて欲しいねん』
「――――――」
妄想以上に恍惚な声が聞こえるのは、気のせいじゃない?
『狼にならへん言うてアレやけどこれくらい許してな?』
チュ、小さい音を立てたおでこは確かに柔らかな口唇を感じた。
やっばい、春到来。
笑顔で手を振ってる白石君にアタシも振り返すけど、ぎこちない手付きはロボット顔負けで。だけど心の中は桜色にガッツポーズをしっかり決めてた。
(白石君!アタシ今すぐ嫁ぐ準備しても良いですか!)
(20100422)
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