04.
瞳の奥に期待する、
期待、したい
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lb.4 オトメゴコロ
ひとつ下だとは思えない財前君の余裕に圧倒されそうなアタシだけど、ドキドキを噛み締めて携帯の時計を見ると3限目が終わったところだった。なんだかんだで3時間くらい寝てたんだアタシ…、て待って。そんな爆睡してたんだったらまさか酷い顔して涎とか…!むむ無理無理!財前君に見られてたら一生の恥、乙女の恥っ!
『何やってるんです?』
「へ?や、な、何でもない…」
とりあえず枕に涎の跡が無いかなって確かめるけどとぼけたフリしてたみたいに、財前君を肩を揺らしながら息だけ吐いちゃって。
『心配しやんでも涎は出てなかったで』
「え、」
『まぁ、寝顔と寝相は凄かったけど』
「ええ…!!」
『ククッ、冗談』
「やだもう…ビックリさせないで…」
『…なんか言うと思います?』
「うう嘘じゃないの…!?」
乙女の恥っていうか乙女失格なんじゃ…!!まさかまさかまさか、袖に香水の残り香が強くなったも寝相が悪過ぎて何度も戻してくれたから、とか?決して手握ってくれてからじゃなくて、アタシのだらしなさに見てられなかった、みたいな。
きゃー!やだやだどうしよう!そんなのアタシ生きていけない…生き恥曝しじゃんか…!
『ほんま変な女』
「へ、変?」
『見てて飽きへん、言うてるんですわー』
「、」
『寝相の話しも想像に任しますけど?』
「……………」
財前君て、ちょっと意地悪。アタシの事見る眼が馬鹿にしてるような見下してるようなそんな感じ。だけどそれでも喜悦は何となく伝って、アタシも嫌だなんて思えなかった。少し捻くれたみたいな愛をくれてる気分で寧ろ嬉しい。
それに何よりやっぱり格好良いんだもん…ああだめだめ女の子って何でこんなイケメンに弱いの!
『何や妄想しとるとこ悪いんやけどあと5分で授業始まりますよって』
「へ、本当に?」
『フケるっちゅうんなら付き合いますけど、誰も来おへん処で』
「っ、」
『クッ!赤過ぎやろ』
「だ、だって…」
財前君の両手で頬っぺたがすっぽり収まったかと思えばおでこごっちんて。こんな綺麗な顔が、こんな至近距離にあったら誰でも赤くなっちゃうって話し。それに誰も来ない場所って…厭でも卑猥な匂いがプンプンするってば!
別に男の子に慣れてない訳じゃないのに、本当に恥ずかしくなる。
『ほな俺は行くんで。教室戻る前にその赤い顔治した方がええと思いますわ』
「…わ、分かりました」
『名前先輩』
「え―――――」
やっぱり皮肉は置いてくんだ、羞恥というかアタシが拗ねたくって外方向いたのに名前を呼ぶ財前君てば呼ぶだけ呼んで何も言わなくて。ただニッコリ、笑う横顔と香りだけ置いて保健室を出て行った。
「…格好良いのは顔だけじゃないって、狡くない……」
暫く赤いの治りそうにないんですけど。あの顔に一体何人の女の子が騙されたんだか…逆にアタシは騙されたいとも思っちゃうけど。でも、他の女の子も同じ事思ってたら嫌だ。なんて我儘なのかな。財前君にはアタシだけで良いとか、調子乗ってる。だけど正直な気持ちはそれだもん白石君にだってそう。
アタシには勿体ないくらいの2人だってことも分かってるし、2人の事はまだまだ知らないし、おこがましいのも程があるけど…
「……………」
財前君も白石君も、優しいから期待しちゃうんだよね。
そんな事ばっか考えてると結局赤い顔は治まる訳もなくて先生にまで心配された4限はあっという間だった。アタシもしかして体調不良の演技って凄いんじゃないの?(演技したつもりもないけどさ!)これからサボりたい時はいつでも使えるかも、フフンて笑って悪巧みを覚えるとピンポンパンだなんて間抜けなチャイム。
《生徒の呼び出し失礼します》
な、何々?校内放送のこの声、先生じゃない。っていうか白石君…?そんなまさか。
《3年情報科の名前ちゃん。至急テニス部部室、白石と財前の元に来るように》
「、っ!?」
《繰り返します。名前ちゃん早よ来てなぁ?》
《今すぐ来な、あの事バラしますよって》
《は、あの事って何や財前》
《あー部長には言いたくないんやけど》
《何やその秘密主義な雰囲気》
《ま、そういう事で》
もう一度ピンポンパンと鳴って放送が切れると、クラスから驚きと妬ましい視線がアタシに突き刺さる。アタシが1番ビックリしてるってのにそんな眼向けられても…!
クラスの居心地悪さ以前に2人の呼び出しなら行かない訳なくて教室を飛び出るアタシだけど、こんな事されたらやっぱりやっぱり期待するなってのが可笑しいと思った。
(自惚れたいんです!白石君!財前君!)
(20100207)
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