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 k06.



冷眼を向ける顔も、温容を向ける顔も、どっちもホンモノの白石さんなんだけど…。柔らかく笑うあの笑顔だけを信じたいと思うのは、何処かで彼を恐ろしい人だって認識されてるせい?


「………………」

『どないした?やっぱり傷が痛む?』

「、大丈夫です」

『………………』


白石さんを映しては膝に置いた拳を見て、じっと彼を見ることが出来ないで居るとそれを察したみたいに白石さんはアタシから距離を置いた。


「、」

『名前ちゃん、今度はコレん事教えてくれへんかな?』


ニッコリ。携帯を持って満面を向けてくれるのは、どう考えても白石さんの優しさだった。
何も言えずに居るアタシを咎めるんじゃなくて、だからって遺憾する訳じゃない。普通にしてくれる事が、アタシにとって1番だって理解してくれんだ。心が強くて、心が綺麗な人、そんな白石さんの傍に居て白石さんをもっと知りたい。小さな恐怖心は別の違う感情を生んだ。


『コレも食べ物、なん?』

「違いますよ、それは携帯電話って言う物です」

『けーたいでんわ、』

「遠くに居る人とお話しが出来る機械です」

『え、こんなんで話しが出来るん!?』

「出来ますよ、あとメール…手紙を直ぐに送れたり貰ったり」

『はー…未来っちゅうのは進化してんねんな…』


厭な情感を捨てて、くるくる携帯回し眺める白石さんにアタシも笑顔で返すと離れた距離は0に戻った。隣に座った白石さんが、心地良い。


「あ、写メ撮りたいです!」

『え?』

「えっとですね…この丸いとこを見て笑って下さい!」

『わ、笑うって、これでええんかな……うわっ!』


機械独特のカシャーという交換音に後ろへ引いた白石さんが面白くて吹き出しそうだったけど、それよりも画面に映った不自然な笑顔の方が面白くて。さっきのあの人の驚きっぷりより本気で笑える。
端正な白石さんが引きつった顔するとか、易々見れるもんじゃないよねきっと。


「あはは、ハハハッ!」

『わ、笑ってへんと何をしたんか教えて欲しいねんけど…』

「はは、ごめんなさい、コレ見て下さい」

『何……、俺と名前ちゃんが居る…!』

「これが写メって言うんです、そこにあるモノを映すんですけど、あはは…!」

『ほんま未知の世界やんな…めっちゃ凄い…どんな仕掛けやねん』

「流石にアタシも構図までは分かんないですけど、ハハハッ!」


ガムと同じく感心と愕然を繰り返すのも新鮮だけどツボに入ったばっかりに笑いは止まんなくて。ちゃんと説明してあげたいのは山々、でも今は無理。隣の白石さんと画面の白石さんを交互に眺めては笑いが込み上げてくる。
いい加減お腹痛いんですけど!


『………名前ちゃんて笑い上戸なん?』

「えー、普通です」

『そうなん?』

「ごめんなさい、白石さんが可愛くて、」

『別にええんやけど…財前より面白かった?』

「え、」

『財前越えられた?』


あの人みたく怒らせてしまったのかと思えばまじまじとしてアタシを真っ直ぐ映す。言葉の意味が理解出来なくて、白石さんの真剣な顔に込み上げてた笑いも消えると、


『財前だけが名前ちゃんを笑わせられるって狡いし』


俺が、楽しませられたんならそれで十分
首を傾けて莞爾する向こうには幸せの世界を見せられた、ような…。こんなの、ドキドキしない訳ないじゃん。自分が特別だって、期待しない訳ないじゃん。狡いのはあの人じゃなくて誰でもない、白石さんだって。


「……………」

『、顔赤いけど』

「そ、それは、白石さんのせい、です」

『………………』

「白石さんが冗談言うから、」

『冗談ちゃう』

「、」

『俺はそう思たから、それを言葉に変えただけや』

「……………」


頬っぺたが包まれて目の前には整った麗姿。それだけで心臓はけたたましく運動を止めないのに、


『俺、自惚れても良えの…?』


コツン、おでことおでこが重なる。
心臓の音が聞こえるんじゃないの、顔が熱いのも伝わるんじゃないの、アタシが白石さんに惹かれてるのも、全部、知られるんじゃないの?
羞恥心と期待しただけの心が不安に呑まれてく。


『俺な?名前ちゃんが此処に残ってくれて嬉しかった』

「……………」

『男として、財前に渡したくないって思ったんや』


もう、良い。
何でも良い。

アタシは白石さんに出逢って、白石さんを好きになる為に此処に来たんだって、それ以外の可能性なんか要らない。



(20100420)


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