「光…寝た?」
『………………』
「寝た、んだ…」
今日も光と同じ布団に入って光の体温を感じる。安堵しか無かった温もりなのに今は蕭条さえ感じて爪先から身体が冷えていく気がした。
“俺があの人の首を徳川に捧げる”
あの時の光は冗談を言ってる顔じゃなかった。真剣に、本気で、遣るって眼だった。
何でなの…?光は白石さんと、友達じゃなかったの?懐刀は、白石さんを守るって、白石さんと同じ道を歩くっていう証じゃなかったの?
どうしてこうなったのか、光が何を思ってるのか、明日眼が覚めた時は話しを聞こうと眼を瞑った。
ドキドキ鼓動する心音を聞きながら、このまま光の気持ちも知れたら良いのに。光の胸に手を当てて朝を待った。
「……、ひかる?」
『………………』
この数日、1番永く感じた夜を経て太陽が昇ると光は既に起きてたらしく窓から空を見上げてた。
殺伐とした光の眼は青空も雲も太陽も掻き消してしまいそうな強さがあって、アタシまで、呑み込まれちゃうんじゃないかって…
光の何がそんな顔させてるの…?
『珍しく早いやん』
「え、あ、うん」
『何やねんその挙動不審な感じ』
「べ、別に普通じゃん!」
『それが普通やったら世の中変人なんや存在せえへんな』
「また酷い事言う…!」
振り返った途端、いつもの光に戻って安心感が溢れる。変わらない口振りも失礼極まりないけど今は言われたかった。
「あの、光」
『はー?』
「昨日の、冗談、だよね?」
『何の話しや』
「し、白石さんの…」
『何で冗談言わなあかんのや』
って事はやっぱり本当に光は…。
頭をガリガリ掻いて面倒臭いって視線を向けてくるけど「はいそうですか」で済ませらんない。白石さんはアタシを助けてくれた人である、光にも友達を裏切るなんてして欲しくないから。
「光!何でなの?昨日だって光は、」
『あんなん気引く為やろ?』
「、」
『俺は当日まで西軍の人間として動く、都合良く事が運ぶ為の座興や』
口では悪態を見せるのに、どうしてだろう。光の黒い眼はユラユラ揺れて本当は迷ってる様に、見えた。そうだよ、光がそんな事する筈無いもん…
「…本当に、白石さんが死んでも良いの?」
『………………』
「違うんでしょ?アタシには嘘吐かないで、もしかして東軍の誰かに圧力掛けられてるとか、何か理由が『うっさい!』」
「、」
『俺は誰も信用してへん』
「え…?」
『信用出来る人間なんや居らへん。天下分け目もどうでも良えし、白石が勝とうが徳川が勝とうが興味無いねん。流されるまま生きて、自分に害が無かったらそれで良い』
興味無い、信用出来ない、それが光の本心…?
それじゃ今まで光は、誰も信じられないまま独りで生きて来たの?周りは全て敵なんじゃないかって、不安と葛藤してきたの?
そんなの、哀し過ぎる。
『…何で名前が泣くんや』
「だって、」
『どうせ名前もいつか自分の時代に帰るんやろ』
早よ帰れば良え
その言葉はアタシをも拒絶してる様な突き放された冷たい声で、部屋を出て行く背中をじっと視界を滲ませながら見てるだけだった。
アタシは光が好きなだけなのに、その想いすら届かないんだ。
(20100511)
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