光が好き、だけど光はアタシなんて。
ぐるぐる無限のループを彷徨うみたいに繰り返せば食欲なんか出て来なくて、朝食を見ては俯いて眼を伏せた。
光…、光はどんな気持ちでアタシと一緒に居たんだろ。どんな気持ちで好きって聞いてたんだろ。
鬱陶しい?馬鹿みたい?それかやっぱり嘘だって、思ってた?
アタシは本当に光が好きだよ、本当に好きになったんだよ。でもどうやって伝えたら分かってくれる?アタシを信じてくれるのも、無理なの…?
考えれば涙は溢れて、手で擦ってもまた溢れて、そろそろ瞼がヒリヒリ痛みを持ち始めた。
『…まだ居ったんや』
「、」
『もう出て行ったと思たのに』
それは出て行って欲しかったってこと?アタシがいつまでも此処に居たら、迷惑だって?
アタシの顔を見たくないなら部屋に戻って来なきゃ良かったじゃん、アタシを城に連れて来なきゃ良かったじゃん、佐和山で白石さんのところへ置いて行けば良かったじゃんか…!
「も、分かんない…」
『は?』
「アタシは、光が好きなのに、好きだって言ってたのに信じて貰えなくて、」
『……………』
「光はまだアタシの事疑ってたの?間者だって思うなら身ぐるみ剥がして調べれば良い、追い出せば良かったよ…でもアタシは、光の傍に居たかった、毎日楽しくて、光と居ると安心して、光もそうだって思って欲しかった!アタシの言葉に嘘はないよ、だけど信じられないなら白石さんみたいに殺せば良い!」
『っ、』
「白石さんの刀で、首でも心臓でも切れば良い――――」
光がアタシを信じられないのは自分のせいなのに無茶苦茶言っちゃって、今度こそ本当に呆れられたよね。呆れるのも通り越して嫌われた?
そう思ったのに、アタシの身体は光に包まれて光の薫りでいっぱいに、なった。
『もう良えから…黙れ…』
「……………」
『俺が、悪かった』
ねぇ光、抱き締められて分かったよ?
光だって今までの言葉に嘘は無かった。此処に居るって言ってくれてからずっとアタシの隣に居てくれたよね、寝る時も一緒で、アタシが家族を思い出した時だって優しい眼を見せてくれた。
あれは嘘でも冗談でも無くて、光がくれた愛、だったよね…?
『…俺が人を信用出来ひんのはほんまや。人間なんや天下の為なら同胞殺しも躊躇わへん、平気で自分の子供を売りに渡す汚ない生き物でしか無い』
「……………」
『せやけど名前は、俺に偽りを見せる事は一度も無かった』
「…光には、嘘吐きたくないもん」
『せやからや』
「え?」
『名前は信じたくなった。多分、ずっと信じてた。信じてたからこそ、名前がいつ居らへんなるか、怖かった』
「――――――」
『どうせ、俺ん事置いて自分の時代に帰って、忘れるんやろって』
“早よ帰れば良い”
あの言葉の裏側にはこんな不安定な光が居たんだ。いつも人を蔑んで笑ってるから、全然見えなかった。不器用過ぎだって話しだよ…。
「光、ごめんね…」
『、何?』
「気付いてあげらんなくて、ごめん…」
『、阿呆』
「うん、アタシ阿呆だね」
『ちゃうわ。俺が名前相手に見透かされてたら武将なんかやってられへん』
「な、何それ」
『化粧してへんし、眼腫れて開いてへんし、酷過ぎやねん顔』
「それはしょうがないじゃん!アタシはアタシなりに、」
『せやから俺以外の男にそんな顔見せたらあかんで』
「――――…うん」
光の腕の中で小さく好きって呟くと相変わらず阿呆って返ってきたけど、甘えるみたくアタシの肩に顔を埋められたら、やっと光と繋がった気がした。
アタシは、ずっと光の傍に居るから。
(20100511)
←