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 02.



女の子やのにごめんな、撫でる様に傷を癒してくれて憂愁を見せられたら必然と震えは止まって安堵が生まれた。
この人はきっと、優しい人なんだと思う。


『城に行って…より、今幾つか聞いた方がええかな』

「し、城?」

『せやで。城も知らへん…?俺はこう見えても佐和山の主やねんけど』


佐和山…?そういえばさっき、白石蔵ノ介って…。
まさかだとは思うけど今、アタシが居る今って、


「あ、あの!今暦はいつになりますか…?」

『今日の日付んことか?』

「そ、そうじゃなくて、」

『慶長5年。9月10日や』

「………………」


慶長、やっぱり戦国時代なんだ。アタシ、戦国時代に来ちゃった、ってこと、だよね…。大河ドラマでも何でも無くて、本当の戦国……?
信じられない。


『暦も、分からへんの?』

「………………」


自分でも何が起こってるのか分からないのにこの人にどうやって、何を、伝えたら良いのか分からない。安易に未来から来ました、それを言って通じる?アタシだったら絶対無理。特にこの時代なら不審者で討ち首になるんじゃない、の…?


『………………』

「………………」


黙りを決め込んだところで不審が晴れる訳じゃないし益々変に思われるだけなのに。だけど、どうしたら、良い、の…?


『……あんな、俺さっきまで知り合いの土地まで行ってたんやんか』

「、」

『めっちゃ愛想悪いし口も減らんしちょっと腹立つねんけど何でか憎めへんねんなぁ』

「……………」


俯いて真一文字に口を閉じたアタシにゆっくり話しをしてくれる。
何で…?歴史で学んだ時にはこんな柔らかい空気なんか感じなかった。単に天下を争うだけに生きてる戦争の時代だって思ってた。
アタシみたいな訳の分からない女を相手してくれるだとか、あり得ないじゃん…。


『せやけどそんな男の国やのに城下は活気あって楽しいねんて。可笑しな話しやろ?いつも行って良かったって思うねん』


自分の天下を取る為なら何だってする、人殺しの世の中なのに、何でそんな嬉しそうに話しをするの?城下なんて関係無いんじゃないの?


『良かった、とは思うねんけど、ほんまはその後が問題や。大所帯で歩くんは嫌やからこっそり出て行くんやけど城に帰ったら危機感が無い言うてお説教されるんや、適わんやろ?』

「…何で、アタシにそんな事、話してくれるんですか…?」

『え?』

「白石蔵ノ介さんって身分の高い方じゃないですか…何処の誰かも分からないアタシに話すことじゃな『せやからや』」

「、え」

『自分も俺ん事知らんかったやろ?俺も自分ん事は知らへん。何も知らん相手を前にしたら気負いすんのも当然や』

「………………」

『せやったら、俺から、俺を知って貰う必要があるやろ?』


今、出逢ったばっかなのに。
今の今まで疑心を抱く相手だった筈なのに。

この人の言葉は暖かくて、お日様みたいで、泣きたくなる。歴史なんて過去の事だってどうでも良く感じてた自分が恥ずかしい。


「ごめんなさい…」

『、何で泣くんや?気に触る様な事言うてしもた…?』

「ちが…アタシ、不安で、」

『……………』

「自分でも、何があったのか良く、分からなくて、何で此処に居るのかも、分からなくて、だけど、優しい、から」


流したくても流せなかった涙が爆発したみたいにボロボロ落ちていく。もしこの人に逢えなくてずっと1人だったら何も分からないまま不安だけを抱えて死んでたかもしれない。右も左も分からないまま、窮地に立ってたかもしれない。そう思うと馬鹿みたいに泣けた。


『…大変、やったんやな?』

「――――――」


大きな手がアタシの頭を撫でて、蕩蕩としたものが染みる。
まだ会話らしい会話なんてしたことも無いけど、会えて良かった、確かにそう思った。


『とりあえず、名前教えてくれへん?』

「、名前、です」

『よっしゃ、名前ちゃんやな。俺決めたで』

「え?」

『キミと一蓮托生する』


頭から下りた左手は右手も添えてアタシの手を包み込んだ。
一蓮托生、運命を共にするとか、ピンとは来なかったけどこの人の優しさに笑わずには居られなかった。



(20100415)


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