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 01.



「あーあっ」


毎日朝早く起きて学校行って、同じ事の繰り返しに飽き飽きして。彼氏やら好きな人やら、恋愛でもしていたならちょっとは違うのかなってカップル仲睦まじく登校してるのを睨んでみた。だからってアタシに好きな人が出来るかって言われたなら突然出来る訳が無いし、ただの僻みにしかならなくて。
自分で自分の心の狭さに項垂れて、それでも学校に向かってる時だった。


「何を思ってもちゃんと学校に行く辺りアタシが面白味に欠ける人間なんだよね―――、何これ、」


ゴミ捨て場でも何でも無い道路にポツンと置かれた布切れ。コバルトブルーがくすんで白くなってるけど外にあっただけに黒く汚れてる。
ゴミくらいちゃんとマナー良くゴミ箱に入れるかどうかしてよね、そう思って放っておけば良かったのに、何でかソレを拾いあげた。


「、え」


途端、右手が半透明に透けて布切れに吸い込まれる感覚で。


「や、やだ、何々、何これどうなってんの嫌無理!無理無理!」


いやあぁあー!なんて叫んでも時既に遅しってやつで、完全に身体が消えるのを目の当たりにした。


「…………、あ、アタシ、生きてんの…?」


実は、あの布切れは宇宙人だとか未知なる生命体でアタシは身体を奪われて死んじゃったに違いない。そんな事を考えてると今はハッキリ身体も見えて。
今の何だったの、怪訝に考えたかったのに今度は不自然な浮遊感。


「へ、アタシ…空、飛んでる…?」


ゆっくり首を180度捻ると辺りは一面のコバルトブルー基、青空。何が何だか分からないまま下を見ると遥か遠くに地面が見える。

地面が、見える。その瞬間急速に落下だとか笑えないんですけど。


「い、いや、落ちる落ちる落ちるーっ!!」


アタシの体重から計算すると何トンの衝撃になんの?どうせ死ぬなら爆死とか痛み無くあの世に逝きたいのに神様ってば意地悪過ぎる…!
テンパって焦って動揺して、泣く泣く覚悟を決めたけど、


「……あ、あれ、死んで、ない…?」


ドーンと、物凄く大きな音がしたものの何でだか痛みは無かった。(ちょっとお尻が痛いけど)
この短時間にまさか2回も疑似体験(疑死体験)が出来るとは思わなかったけど…普段つまんないつまんない言ってるアタシへの天罰でしょうか。考えたって分かんないけど今日のアタシはすこぶるヤバイ、色んな意味でヤバイ、一旦家に帰って寝た方が良いんじゃない…?うん、とりあえず帰ろうと立ち上がると見慣れない景色に背筋がゾッとした。


「なに、この田舎…」


見渡す限り山、山、山。
車も無い、コンクリートで整備された道も無い、伊勢丹も無い、コンビニも無い、緑しか無かった。
遠くに家らしきものは見えるけどあれって家なの…?倉庫…?
日本にもまだこんなとこがあったんだ、そんな冷静に思う間も無くアタシと同じ、瞠若した人が見えた。


『な、何者やねん…空から降って来よった、』


笠を上げて覗かせた顔はアタシが今まで眼にして来た中でダントツ1番を飾るくらい整った美麗さで、時代錯誤な袴姿も可笑しいと思うより一層際立ててくれた。
何を言えば良いのか分からないくらい、眼を奪われる。


「……………」

『自分、徳川の忍か?』

「え、」

『…っちゅう訳でも無いか』


格好良いのは格好良いけどちょっと待った。
徳川の忍って何?徳川って家康?忍って所謂忍者?
あ、まさか大河ドラマの撮影か何かでアタシを役者だと勘違いしてるの?それならこの場所もセットとして作ったんだって納得出来るし何もかも辻褄が合う―――


『曲者、素性を吐け』

「っ、」


、とかいう問題でも無いらしい。
何処からか現れた黒尽くめの男に背後から短刀を首に宛行われて一筋、赤い色が滴った。

息をするのも苦しくて怖くて、泣きたいのに泣けなくて、ただ口唇を震わせてると笠を剥ぎ取った袴姿のあの人が静かに首を振るなり背後の男は消えた。


「……………」


本当に、何なの?此処は何処?
アタシは何でこんなところに居るの?
口唇の震えは止まんなくて、腰が抜けてしゃがみ込むと全身に震えが走る。さっきみたく馬鹿みたいに死ぬかもって泣き叫んでた自分が冗談に見えるくらい、今は声も出ない。
怖い、怖い、それだけが脳裏に焼き付く。


『…なぁ、名前教えてくれへん?』

「、」

『俺は白石蔵ノ介、良かったら話し聞かせてくれへんかな』

「……………」


懐からコバルトブルーの布を取り出して、その人は優しくアタシの首を拭ってくれた。
これが、アタシの新しい世界の始まり。



(20100415)


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