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 h09.



右と左、重なった手が心地良くて身体も心も暖まる……、なんて言ってる場合じゃなくて。同じ部屋、隙間無く隣に敷かれた布団、アタシと光2人きり、そんな空間で呑気に嬉しいだなんて寝られるかっての!
嬉々な気持ちに間違いは無いけどそれより何より緊張のが凄まじい。好きだって言った手前、冷静になればなるほど羞恥が襲いかかるし意識的になるのは自然淘汰の事だった。


「、」


ドキドキ煩く鼓動する心臓に静まってなんて手を当てながら横目で光を見ても固く眼を閉じて、窓から入って来る月明かりに照らされる横顔は麗しさに拍車を掛けて一層ドキドキが速まった。

み、見るんじゃなかった。
本当に寝てるのか寝てないのかは分かんないけどアタシの心臓が持たない…!いっそ手を離して光なんか居ないって暗示でも掛けたい気分だけどやっぱり離したくない。ちゃんと光が居ること、頭でも身体でも解ってたい。

こうなったら光の事だけ考えて徹夜でも何でもしてやるよ、そう思ってたのに。


「……、朝……?」


気が付けば月は顔を隠して薄明かりが部屋に広がってた。結局アタシってあれから直ぐに寝たって?超、恋する乙女になってたのに何なの単純過ぎ自分でも引くんだけど。
ま、まぁしょうがないよね、アタシも急にこっちに来て小さい脳みそフル回転させてたんだもん疲れてたんだ、うん。


「……ひかる?」


言い訳はともかく、未だ繋がった温もりは健在なことに朝からだらしなく顔が緩む。
もう起きてる?改めて指に力を入れながら覗き込むと、まだ静かな寝息を立ててた。


「本当、綺麗な顔…」


嫉妬しちゃいそうなくらい肌理が細かい肌と絵に描いた様に並べられた目鼻立ちは何度見たって惚ける。美人は3日で飽きるとか言うけど男の美人は別だよね、絶対飽きない自信があるもん。
この麗姿も好き、優しい内面も好き、多分明日には今日よりもっと好きになってる。
昨晩から懲りずに乙女モード全開で居ると漸く、光の瞼が上がった。


『……朝から何や』

「好きだなって、思って」

『昨日とは偉い反応がちゃうやん』

「1日経って大人になった」

『あほ』


気怠そうに視線を向けながらもフッと笑ってくれたら、独特の色気に取り込まれそうになる。阿呆って笑われてるのにもっと言って欲しいとか…喜んでる自分が最高に気持ち悪くて最高に好き。どんだけ矛盾してんのって感じだけど。


『まだ陽昇ってへんしもう少し寝る』

「、まだ寝るの?」

『俺朝嫌いやねん』

「嫌いって言われても…早く出るって言ったの光じゃん」

『あー煩い』

「っ、」


途端繋いだままの手を引っ張られて光の布団の中へ一直線。『せやったら起こしてみ』なんて耳に息を掛けてきて、絶対アタシで遊んでる。分かってても動悸が激しくなるアタシは暖かい布団と光の身体に触れる肌が熱がどんどん帯びて全身火傷でも覆った気分で。
無理、こんなの無理!熱過ぎて頭が痛くなる…!


「か、勝手に寝れば良いじゃん!」

『、』

「別に、寝るなとか言ってないし!」


あからさま過ぎた反応だけど布団から飛び出るのが精一杯で上手い弁論なんか浮かばない。早く起きて話しがしたい、そんなの言える訳無いじゃん!


『クックッ、若いお嬢サマには男と同じ布団に入るんは早かったって?』

「ば、馬鹿にしないで!」


アタシが大人になったなんて言ったから面白がってんでしょ、ムカつく男!朝が弱いんですって素振り見せておいて厭味言えるくらいしっかり眼覚めてんじゃん馬鹿男!


『名前』

「なに!」

『手、離れたんやけど』

「………………」


起き上がる事もなく伸ばされた右手にどうしろって言うの。どうせ重ねたって重ねなくたってまた厭味と皮肉言うくせに。


『ん。聞き分けの良い女は嫌いやないで』


だけど自ら離しちゃったことに後悔した気持ちがあったのは確かだから。


『名前』

「こ、今度は何…」

『俺が好きなん?』


ぎゅうぎゅう、次は光から力を込められて返事を急かされる。
さっき朝一番に言ったのに。言わなくたって分かってるじゃん。改めて言わせないでよ、恥ずかしくなる。


『何黙ってんねん』

「、好き!好きだよ光が!」

『あほ』


言わせといてソレは無いんじゃない?何回阿呆って言えば気が済むの。
やっぱりムカつく。やっぱり嬉しい。やっぱり矛盾してる。
ぐちゃぐちゃな気持ちが行き交うけど、迎えた朝は悪くなくて左手に幸せを感じた。



(20100426)


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