「……………」
『……………』
ご飯も食べて後は寝る、そう言い切った光なのにアタシの鞄を漁ってはiPodに噛りついたまま沈黙を作る。どこをどう触れば良いのか葛藤する姿は笑える筈なのに、ろうそくがユラユラ揺れながら光を映すと幻想的で、改めて整った人なんだって…見惚れちゃうのが本音。
『なぁ、音が出えへんけど』
「さっきは出したじゃん」
『そんなん知らん』
「ここだよ、ここ押すの」
ピッと再生ボタンを押すとアタシが好きな曲とそれのPVが流れて、光はまた肩を跳ねさせた。
あー、さっきは映像が無かったから。本当面白いよね光って。
『な、なんやねんコレ…』
「何て説明したら良いんだろうね?テレビみたいなもの?」
『知らんわ』
「とにかくそういう機械なの!これアタシが好きな歌なんだよ」
『……………』
歌詞も音楽も合わせて好きだった。ネットで聞いて好きになって、レンタルショップに走ったけど置いてなくて売り場にも無くて。わざわざ取り寄せして貰ったのにそれももう1ヶ月前の話しだっけ。
『こんな変な男が好きなん?』
「へ、変て!」
『派手な頭に怪訝な装束、奇人やで』
「それがアタシの時代では普通なんだよ…」
派手な頭だって言ってもちょっと金髪で長めの髪型なだけだし、服だって白いシャツにジャケットっていう何ら可笑しくもないのに。
じゃあアタシの制服は?やっぱり可笑しいって?
「ねぇ光、」
『……………』
「……………」
光から見てアタシってどうなの?
聞きたかったのに言えなかったのは、光がじっと潤いを持って画面を見てたから。
(想いは結葉、短夜の水鏡、夢の中であなたを見つめていた)
(吐息は忍び音、芳しい五月闇、夢の中であなたを抱き締める)
(荷風の戯れに、波紋の儚さに、あなたを重ねて哀愁を知る)
(花神の微笑に、翠雨の煌めきに、あなたを重ねてそう幸福を知る)
恋の歌を聴いて、光は何を思ってるの?過去に好きだった女の子でも思い出してる?
アタシが此処に居ること、忘れてない…?
『………、またなに阿呆面曝してんねん』
「、え」
『今度は何が哀感で泣いたって?』
「泣いて、な……、」
何でボロボロ落ちてくんの。
何で泣く必要があんの。
自分でも分かんない。今度はパパとママを思い出した訳でもないのに、光が歌を聴いてただけなのに、愁然とした横顔を見たら、何か…
『理由は』
「知らない、」
『同じ事言わすな。言えって言うてんねん』
「だって、アタシも分かんないもん…!」
『は?』
「光が遠くに行くような、気が、したから…」
天下取りの時代、政略結婚があればその分叶わない想いだって沢山あった筈。もし光に好きな人が居て、家の為だけに手を離さなきゃいけなかったら忘れられる訳がない。
アタシが知らない時代、アタシの知らない光が居る。アタシは、光の事を何も知らない。
今、光が、どんな気持ちなのかどんな状況に居るのか、何も分かんないんだもん…。
『名前』
「な、に…」
『俺が好きなん?』
「へ、」
『遠くに行くのが嫌、つまりは傍に居って欲しい、っちゅう事は好きなんちゃうん?』
単純で突発的過ぎて、何言ってんのって感じだけど。
「…そう、かもしれない」
『素直に好きって言えば良えのに、阿呆』
「うるさいよ…」
(恋と呼べば心は乱れるもの)
(恋と呼べば心は切なくて)
(あなたに逢いたくてあなたを知りたくて、色彩づく恋模様、幾千の夜)
2つ並べて敷かれた布団の上、光の指が絡まるとそんな単純なモノで良いんだと思った。
傍に居たい、傍に居て欲しい、それが好きってこと。
(20100423)
玉響のしずく
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