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この人が、白石さんを裏切る?
あんなに親しくしてたのにまさか。歴史は事実と虚実が曖昧だったり語弊があったりするもん、そんなの嘘、じゃん…?

だけど、もしそれが本当なら、あの時の曇った顔の理由が嵌まらなくもない。最後には白石さんと敵対するから、だから。
例えそうだとしても理由がある筈だし、訳もなくそんな事する様には見えない。それでもアタシは…、

あの人と白石さんの間に壁が出来るなんて思いたくなかった。


『阿呆、聞いてるんかって』

「った!な、何…!」

『早よ乗れ言うてんねん』

「へ…?」


眼を細めて明後日の方ばっかり見てると不意に頭に痛みが走って、やっと我に返って頭を小突かれことに気付いた。またこの人はアタシを殴って、本当暴力的なんだから。アタシがどんな気持ちで考え事してたか分かってます?そんなの口には出来ないけど。


『早く馬に乗れ言うてんねん』

「あ、はい、ごめんなさい」

『今更戻りたくなったって?』

「え?」

『白石さんが、良いんちゃうん?』


裏切り、その単語がグルグル脳内を行ったり来たりしてたから当然耳に入って来る言葉は聞こえてたとしても聞こえてなくて。だからアタシはあの人の声が聞こえなかっただけなのに、そんな寂しそうな顔、しないで。


『どうせ俺には何も無い、戻りたいなら戻れば良え』


自嘲めいて吐いた台詞は哀しくて切なくて、でもそれ以上に頭に来る。


「何、言ってるんですか」

『、は?』

「アタシがいつ戻りたいなんて言いました?そんな事言ってない!」

『、』

「付いて行くって決めたんだから勝手な事言わないで、悲劇気取らないでよね!アタシは何言われてもずっと財前さんの傍に居るんだもん!」


哀しいから頭に来た。
そんな顔させた理由がアタシだったなんて嫌だから。幾ら綺麗だとしても、似合わない。嘲笑ってるくらいがこの人には丁度良いのに。


『……………』


とは思ったけど、眉を寄せて呆けてる顔を見るとまたやっちゃった、って。勢い任せは時に最悪の事態を招くってこと?
だけど本当に、嫌だったんだもん…。


『阿呆名前』

「はははい!」

『絶対、なん?』

「、え?」

『二言は無いんかって』

「――――、無いです…」

『分かった』


殴られる、そう思ったのにあの人はアタシの頭を撫でて優渥を見せた。口が悪くて人を小馬鹿にするあの顔が1番似合うと思ってたのに、こんなの卑怯。嫌でも心臓が煩くなる。


『振り落とされんようにちゃんと掴まっときや』

「は、はい分かりました財前さん…」


ただでさえドキドキ、ドキドキ、あの人を意識する心臓がパンクしてしまいそうなのに馬に乗れば距離無く密着しちゃって。背中に感じる体温が眩暈を起こしてしまいそうなくらい暖かい。
やだもう嬉しいとか自分が信じらんない。


『っちゅうか普通に喋ってくれへん』

「、普通?」

『あんだけ俺に罵声浴びさせてしおらしくされたら気持ち悪い』

「き、気持ち悪いとか酷いんですけど!!」

『それやそれ』


慣れない敬語に頑張ってんのにそれは無いんじゃないの?正直過ぎるのも考えもんだよホント。女の子に気持ち悪いとか超傷付くんだから。


『しゃーなし、名前とは対等で居ったる』

「どういう意味…」

『地位も名誉も何も要らん関係や』

「―――――」

『せやから、次普通に喋らへんかったら落とすで』

「でも、普通って言っても財前さんは、」

『ひかる』


何も要らない関係、つまり殻を捨てたあの人とアタシが同じ位置で居られるってこと。
『今度はほんまに落としたるから』って、子供みたいに意地になってるとこ嫌いじゃない。寧ろツボ、好き。


「ひ、ひかる?」

『何やねん』

「多分アタシ、光好きになる!」

『……なれば良えわ』


やっぱりこの人には嘘吐きたくなくて余計な一言まで滑らせちゃったけど、いざ口にすると息が出来ないくらい心臓が痛くて苦しくて何も喋れなくなった。

だけど背中から伝う体温の熱が上がった気がするのは、アタシの勘違いなのかな。



(20100420)


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