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 k15.



あれから朝御飯を食べて、昼御飯を食べて、それでもずっと蔵はアタシの傍から離れなかった。執務があるんじゃないのって聞いたって今日はお休みだとか言ってアタシの左手をぎゅっと握ったままで離さなかった。


『へぇ、せやったら名前ちゃんはお母さんっ子やねんな』

「そういう訳じゃないけど、でもママには何でも話せたかな、1番の相談相手っていうか」

『親子関係が上手く行ってるのは良えことやで』


手を繋いだまま、時間も気にしないでこんなにも部屋でゆっくり過ごすのは初めてだった。
蔵にしては珍しく質問が耐えなくて学校のこと、家族のこと、アタシの生活、今との生活スタイルの違い、色んな話しを聞かせた。

聞かれるがまま素直に話しをしたけど何で急に、そう思うと答えはひとつしか見えなくて、空に見える太陽がオレンジに変わったなら、今度はアタシから声を出した。


「あのね、」

『どないした?』

「もしかしなくても、もう戦が始まるの…?」

『………やっぱり、隠せへんやんなぁ』


夕陽に当たる蔵の髪はミルクティー色をほんのり赤く染めてキラキラ光りながら揺れて。
艱苦を噛み締めた様な苦笑は、手を繋いでるのに届かない距離にある気がした。


「いつ、から…」

『明日、正午には立って明後日関ケ原にて時を見て開戦する』

「………………」

『何処にも行かへんて言うたのに、ごめんな…』

「行かないで、って、言っても良いの…?」

『ごめん』


謝るくらいなら最初から約束なんかしないでよ。言わせたのはアタシなのに酷い文句ばっか浮かんで。
きっとアタシがどんなに説得してみせても首を縦に振ってくれる事は無いんだって、揺らぐことない眼が真っ直ぐアタシを映してた。

行かないで、アタシを独りにしないで。
行かないで、蔵は死なないで。
考えちゃいけない厭な思いが溢れてくる。


『名前ちゃん、お願いがあんねん』

「、お願いって?」

『携帯持ってったらあかんかな』

「あんな物で良いなら、別に…」

『有難う。名前ちゃんに逢えへん間はあれを見て過ごすから』

「戦してるのに、見れる訳無いじゃん…」

『名前ちゃん、』

「アタシに気使わなくて良いから!どうせ明日には居なくなるのに今の内に嘘の罪滅ぼしとか要らない!」


アタシ何言ってんの?
そんな事言っても現実は変わんないのに。


「蔵は勝手だよ、戦に行ってアタシを置いて行くくせにアタシを優先する素振り見せて…置いて行かれたアタシはどうすれば良いの?建前だけの蔵からの好きを信じちゃったアタシは馬鹿みたいじゃん!」

『………………』

「あ、」


分かってたのに口が止まんなかった。離したくなかったのに左手を振り払った。
あの日出逢ってからアタシを優先してくれた事は素振りだけじゃなくて真実で、戦に連れて行ってくれないのはアタシを危ない目に遭わせたくないから、蔵の愛は建前なんかじゃなくてちゃんと毎日受け止めきれないくらいに貰ってたのに。

行かないで欲しいだけなのに、素直に頑張ってって言えないだけなのに、そんな憂愁な顔、させるつもり無かったのに……。
苦しそうな顔しないで、アタシの事なんかでまた自分を責めないでよ。


『……名前ちゃん、ほんまに、ごめんな…』

「アタシが謝らなきゃいけないのに蔵が謝んないで!」

『ううん、それを口にさせた俺に原因があんねん』

「だから違う、」

『せやけどひとつだけ訂正させて』


俺が名前ちゃんを好きやと想う気持ちに嘘は無い

離したのはアタシなのに何度も手を伸ばして抱き締めてくれる。ぎゅうっと力強く包まれたら自分の儚さに悔しくなった。
この人を支えてあげたいって思ってた筈だったのにアタシばっかり救われて、結局何も出来なくて重しになってるだけじゃん…


「ごめ、蔵…」

『名前ちゃんが謝る理由は無いから、な?』

「本当にごめ、なさ、」

『阿呆やなぁ…やっぱり名前ちゃんは優しいねんて』

「アタシ、蔵が、蔵の事、」

『その先は言わんで』

「、」

『その代わり、今日はずっとこうさせといて欲しいねん』


アタシが好きならどうしてアタシに好きって言わせてくれないの?今日くらい、伝えても良いんじゃない…?
何を思ってそう言うのか、どれだけ考えたって答えが見えないけど今は言葉なんて要らない。そう言ってるみたいに蔵はきつくきつくアタシを抱き締めて離さなかった。

誰か、時間を止めて。



(20100511)


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