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 k12.



「んー美味しいっ!」

『ほんま名前ちゃんて幸せな顔してご飯食べるなぁ』

「だって食欲が満たされるのは幸せだもん!エクスタシーだよ」


一口一口、食材にも料理をしてくれる下女さんにも感謝を込めて噛み締める。大袈裟かもしれないけど人間、色んな欲がある中で美味しい物を食すっていう事は一生涯の幸福だと思う。これぞ生きる喜び、みたいな。だからこそ好きな人に料理を作って欲しいとか食べて欲しいって気持ちが生まれるんじゃないの?


『何なん?えくすたしーって』

「絶頂ってこと」

『へぇ…んー、絶頂ー!っちゅう感じ?』

「……何かそれ厭らしい…」

『え、』

「何か恥ずかしくなる」

『な、何でそんな事言うねん、名前ちゃんの思いを口にしただけやろ?』

「だってー…」


エクスタシーって言っても一概にコレっていう意味限定には出来ないけど。出来ないからこそアタシが言うとノーマルな感じで、蔵が言うと卑猥が詰まってる感じっていうか…蔵ってば無駄にフェロモン放出して色気有り余ってるんだもん。


『あ』

「何?」

『分かったで』

「、分かったって?」

『何で厭らしく聞こえるか、や』

「それは蔵自身が厭らしいからであって」

『ちゃう。逆やで逆。名前ちゃんが俺に対してそういうん期待してるからやろ?』

「っ、」


朝っぱらからまた何を!どんなセクハラ…!
そりゃ蔵とだったら何だって越えてみせるし甘い雰囲気だって憧れるよ、だからってハナからそういう眼しか向けてないとか無い無い無い、断じて無い。


『俺やって男やからなぁ、そんな風に思われてると分かればいつ理性が崩れるか…』

「とか言って女に困らない部類の人だよね蔵は」

『どういう意味?』

「来る者拒まず、って風には見えないけど向こうから来てくれるから女の子は選び放題っていうか…」


考えてみれば今日迄そういう人見たこともないし聞いたこともなかった。それでもこの時代は…何人も奥さんが居て、それが普通で、それが許される時代だから。
さっきまでエクスタシーとか言ってたくせに自分の言葉にショック受けてたら訳無い。


『なんや、俺ん事そう思ってたん?』

「えっと、違うような、違わないような…」

『言うとくけど俺は特定の女の子なんか居らへん』

「……不特定多数、ってこと?」

『何でそうなるんや…!俺には女の子の影なんやひとつも無いねんて』


まさかそれって武田信玄とかで噂されてる男色、ってやつ…?
え、蔵ってそっちの人?だけどアタシの事好きって………嘘、実は両刀?


『名前ちゃん。何か変な妄想してへん?』

「え、妄想じゃなくて、もしかするとこの間お別れしたあの人と良い感じなのかなって…」

『十分、嫌な妄想や』

「違うの?」

『当然や。俺は男に興味無い』


はっきり告げてくれた事にめちゃくちゃ安堵した。これで肯定されてたらこれから蔵をどうやって見ていけば良いのか悩むんでただろうし、それこそアタシなんかを好きで居て貰うのもなんか……ね。


『その肩の力抜けたーっちゅう顔に喜んで良えんか悪いか微妙やで』

「少なくともアタシは喜んでる、かも」

『そっか、なら良えか』

「でもどうして?アタシが思うに皆が皆、複数の人と結婚して毎日が両手に花、って感じかなって」

『うーん…まぁ実際、何を偉そうにっちゅう感じで鼻高々と女の子娶る奴も居てんねんけど俺は……兎に角、秀吉様の天下が一番やったから』

「………………」

『禁欲してた、言うたら語弊があるかもしれへんけど色恋は二の次っちゅうか…そこまで熱の入る女の子に逢われへんかったっちゅうのも理由のひとつやなぁ』


今と違て。

こっちに視線を投げて口角を上げられると改めて照れ臭い。蔵を見てると自惚れだけじゃなく自分が好かれてるんだって分かるけど、アタシがそんなに想われる理由も見当たらなくて。信じてない訳でもないけど何だろ、不安?自信が持てない?多かれ少なかれそんな気持ちもある。


『せやけど俺と財前がなぁ…心の底からお断り申し上げたいわ』

「アハハ、その言い方だと向こうは万更でもないみたいじゃん」

『無いって!アイツも俺と同じで色恋は無さそうやけど』

「じゃあ尚更!周りからはそう思われてるかもしれないよね」

『白石蔵ノ介と財前光は心も身体も通じてるって?そんなん思われてたら一人ずつお説教や』

「蔵のお説教怖そ――――、」


財前、光…?あの人の名前、財前光って言うの?
話題が話題だけに聞き逃しちゃいそうだったけど財前光って言えば…

“西軍から東軍へ寝返って、東軍に勝利を導いた”
あの人……?


『名前ちゃん?』

「、ごめん、何でも無い」


歴史嫌いだったアタシの記憶が間違ってるだけ。
そう信じて、口の中へ入れたご飯をゴクリと飲み込んだ。



(20100504)


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