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 k11.



もう少し一緒に居ってくれへんかな

包んでくれた腕が揺るまると、縁側まで手を繋いで行った。蔵は我儘言ってごめん、なんて謝ってたけどアタシには我儘に聞こえなかったし弱いところを頼ってくれてるんだって思うと幸せでしかなかった。
一生傍に居る、そんな気持ちで。


「蔵、アタシね、今はもう……、」


蔵が居るから寂しくないよ、伝えたかったのにアタシの肩に頭を置いて寝息を立てるとか。何だ寝ちゃったんだ。なんかアタシ間が悪いのか伝えたい事は何にも伝えられない。
まぁ起こすのもあれだしまた明日で良いか、1人でフッと笑って浸ってみた、けど…………。アタシ、動けないじゃん…?蔵を起こしたくないけど起こさなきゃ部屋にも戻れないし何も出来ないんじゃ。


「…まあいっか」


今日はそんなに冷え込んでる訳でもないし、お月見しながらこのまま寝るのも情緒があるってもんだよね。肩に感じる蔵の温もりと、あの手拭いの痛みを噛み締めながら瞼を落とした、そんな夜。


『……なんやねんこれ…』

「うん…蔵…?」

『名前ちゃん!ちゃんと説明して!』

「へ、何、どしたの何事?何があったの?!」


だけど静かな夜は嘘みたいに、太陽が昇れば怪訝な顔した蔵がアタシの肩を掴んで揺さ振ってくる。眼が覚めたばっかなアタシも寝呆ける間も無くその衝動に瞠若しない訳なくて、朝っぱらから縁側で眉を寄せる蔵を見ては眼を見張った。


『これ。何?』

「、え…」


真面目な顔して突き付けられたのはアタシの携帯で、もう操作にも慣れたらしい蔵はアタシが昔写した写メが気に入らないみたいで。アタシだって久しぶりに見る、寧ろそんな画像がまだ残ってたんだっていう元彼との写メついて説明を要求されるなんて思ってもみなかった。


「これは、別に何も…」

『そんな訳あらへん。こんな幸せーな顔して別に、とか無いやろ。俺の眼は誤魔化されへんで?』


なんなのコレ。別に疾しい事した訳でもないのに浮気を疑われてる様な気分なんだけど?


「それは元彼だから!気にする必要ないし削除し忘れただけだから!」

『もとかれって何?』


め、面倒臭い。
とか言わないけど!ちゃんと説明はするよ蔵の為に!
濡れ衣なんて御免だもん。アタシは潔白です。


『……じゃあ今は関係あらへんの?』

「無いって言ってるじゃん!っていうかそもそも此処に居るのに何も出来ないし…」

『まぁ、そうやけど…』


1から事情を説明して、漸く理解してくれたみたいだけど腑に落ちない、そんな顔する蔵はまだ何か言いたそうに横目でアタシを映す。本当、シリアスな雰囲気だった昨日は何だったの?


『せやけど、名前ちゃんはこの男と恋仲やった、っちゅう事やろ?』

「うん昔ね」

『せやったら今も好きとか…忘れられへんとか…』

「無い全く無い」

『ほんまに?』

「ほんまです」


蔵ってば意外と疑り深いんだ。そりゃ知らない機械を目の前にして別の人とツーショットで居たらビックリするかもしれないけど…でも、それだけアタシの事気に掛けてくれてるってこと、だよね?アタシの事、そんなに好き?


『ごめん、朝から騒々しくしてしもて』

「それは良いけど、嫉妬って受け止めても良いんですか?」

『…そう、なんやろな。めっちゃ腹立ったし、あの男が目の前に居ったら処断してしたいと思ったし』

「蔵が言うと冗談に聞こえないから」

『ハハッ、喩えやのんに』


やっと歯を見せて笑ってくれて、朝が来たって気がした。だけどやっぱり嫉妬なら嬉しいって思うのはアタシも蔵が好きだって証拠。毎日毎日こんな朝だと疲れるかもしんないけど、それでも良いかなって思える。


『ほな嫉妬させたお詫び貰って良え?』

「え、結局アタシが悪いってことなの?」

『そういう細かい事は気にしたらあかんな』

「気になるってば!」

『はい行くでー』

「ちょ、………」


蔵の声を合図に携帯からカシャーと音が鳴って、いつの間にか画像画面からカメラ機能に切り替わってた。ちょっとカメラも使える様になったとか物覚え良すぎ!
蔵は2枚目の写メに満足感いっぱいで莞爾してるけど不意討ちをつかれたアタシは少し不満だった。


『今日からいっぱい撮ろな?』

「…不意討ちしないなら」

『えー?この自然体が可愛いのに』

「か、可愛くないし!」


バッチリ頬っぺたにキスをしてくる蔵と、責任転嫁されてムッとしてるアタシ。ただでさえ整った人と並ぶのは気が引けるのにこんな仏頂面だとか…。


『俺が可愛い言うてるんやから可愛えの』

「もっとちゃんと写りたい女の子の気持ちも分かって下さい」

『どんな時でも俺が名前ちゃんを可愛いって思ってることも分かって下さい』

「何か今日の蔵、頑固…」

『嫉妬に燃えた後やしな』


悪戯っ子みたくウインクされたらアタシには何も反論出来なくて。格好良いのに可愛いっていうのは狡いと思う。
でも、好きな人に可愛いと思って貰えてるならそれ以上の贅沢は無いかなって頷いて、蔵の部屋で待つ朝御飯を目指した。



(20100428)


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