『名前ちゃん支度して』
「え?」
『早よ早よ!』
「う、うん…?」
蔵に起こされた後、ずっと一緒に居られるのかと思えばそうじゃなくて、執務だとか何だかでアタシの部屋を出て行ったきりお昼まで音沙汰も無かったのに。急に部屋へ入って来たと思ったら今度は何?支度って何処か出掛けるってこと?
良く分かんないけど、いつもの癖で使えもしないのに携帯と財布を持って蔵の背中を追った。
「何処行くの?何かあるの?」
『何も無いで』
「へ?」
『ただの逢瀬や』
「、」
『時間空いたし、名前ちゃんと出掛けたかったんやもん』
か、可愛い。出掛けたかったんやもん、て可愛いけど。でも逢瀬ってこっそり人目盗んで逢うって事じゃなかったっけ…?
「……仕事サボり、抜けて来たってこと?」
『そんな事あらへん』
「じゃあ何でこっち見ないの」
『そこはそない突っ込むとこちゃうで?俺が一緒に居りたいんやからそれじゃあかん?』
仮にも一国を背負う人なんだから仕事くらいちゃんとしなきゃ。そうは思っても、数時間離れただけで退屈で寂しさを抱えてたら嬉しい、しか浮かばない。
返事の代わりに蔵の袖を掴むと指が絡まってきて口元が緩んだ。アタシも単純で子供だけど、蔵も意外と子供っぽいとこあるよね。っていうか子供っぽい以前に何歳なのこの人。
「あのね、」
『うんー?』
「蔵って幾つ?」
『………………』
城を抜けて城下へ向かう足を不意に止めた蔵はじっとアタシを映して。怒ってる訳じゃないけど拗ねてる訳でもなくて、だけどそれに似た微妙な表情は何だろ。年齢に触れちゃ駄目だった?
『聞きたいん?』
「聞きたい」
『っちゅうかそこ触れるん?』
「、何か駄目な理由あるの?」
『…名前ちゃんには嘘言いたないし、正直に話すけど……』
「うん」
頭を掻きながらも止めた足をゆっくり一歩ずつ踏み込みんで、蔵が歯切れ悪く口を開くとアタシは愕然とせずには居られなかった。
『四十一』
「、え?」
『せやから四十一やねんて』
四十一……?41歳?蔵が?
え、41?よんじゅう……、
「うううう嘘!!あり得ない!そんな冗談、」
『……やから言いたくなかったんやんか』
「、……………」
冗談、じゃないんだ。
アタシより23個も上って。全然見えないし、ハタチって言われても普通に信じるって話し…!歳取らない顔って凄い、それに羨ましい…。
『こんなオッサン相手にするん嫌やーって思った?』
「ま、まさか!遺伝子が欲しいって思ったの間違いだし…」
『え?』
「、何でもないこっちの話し」
だってもしアタシが40過ぎて蔵みたいだったらとことん調子乗る。歳なんか関係無いって何でも出来るし羽目外しまくって落ち着くって言葉も知らないよきっと。
まぁ、アタシは普通に歳取って、シワとシミに悩まされるんだろうけど…切ない。
『名前ちゃんは幾つなん?』
「アタシ?アタシは18だよ」
『そっか』
「あれ、驚かない?」
『驚くっちゅうか男なら元服した歳やし問題無いなぁって』
「、問題?」
『名前ちゃんと俺の年齢差やな』
「そ、それって、」
昔は15歳になれば成人だったんだっけ、それで年齢差に問題が無いって言われたらつまり…アタシと蔵が恋愛したって普通だって言いたいの?蔵はこんな一回りも二回りも離れた子供でも良いの?
本当はアタシの事どう思ってるのか、ちゃんと聞きたかったのに、
『名前ちゃん退いて』
「え、―――………」
『うっ……』
『………………』
一瞬だった。
蔵が繋いでた手を引いて、アタシが勢いにつられて後ろへ転ぶと視界は真っ赤に染まる。呻き声を上げて横たわった人も、鞘から刀を抜いた蔵も2人が緋色を纏って。
な、に…?
何が、起きたの…?
蔵が人を刺した、の?
『徳川の忍びやな?』
『……………』
ヒュウヒュウと息をして艱苦の眼を向けるあの人に、躊躇いもなく首に刃先を当てる蔵は俗に言う修羅の顔で、怖いを通り越して酷く流麗に見えた。
『話す気は無いって?』
『、っ――………』
「、」
赤が溢れる傷口を押さえてあの人が蔵を厭わしく睨み付けると途端、手に持った短刀を光らせて自分の首を一刀した。
アニメの世界じゃない、ドラマの世界じゃない、地に広がる赤色をただじっと眺めるだけしか出来なかった。
(20100425)
真実味を増したくて史実を少し入れてみました。が、年齢41歳は逆に無かったかなと後悔してみたり…('・∀・)
←