無条件にときめいて、
無条件に欲しくなる
R17
desire.5 ヌーボー
蔵から貰った体温に光を重ねて、思い込みでやり過ごしたかったのに溢れてくるのは光への欲求だけ。蔵の背中を見ては何で光じゃないのって。光に会いたい、光と話したい、光に触れられたい、欲求が欲求を生んでもどかしくて。焦れったいのか切ないのか何なのか良く分かんないけど、光に会えない授業時間は艱苦に代わりなくてじっと俯いて下口唇を噛んでた。
『明日の課題忘れないように!ほな気を付けて帰りなさい』
「、」
やっと終わった、やっと午後の授業が終わった。チャイムに重なる先生の声を聞いたら顔を上げて鞄を持って一目散に廊下を走って、目指すところはひとつだけ、光に会いたい。
『あ、名前やん』
「ごめん謙也、急いでるから!」
『え、』
「ごめんねまた明日!バイバイッ」
6限目の選択科目から帰って来た謙也の横を勢い良く通り過ぎたら呆気に取られた顔で振り返って来たから思わず笑っちゃったじゃんか。だけど今のアタシには光の事しか浮かばないんだ。それもこれも光のせい、光が悪い。
『あ。』
「、」
無駄に長い廊下を走って走って、階段も足がもつれちゃいそうになりながら掛け降りて。漸く目的地な光の教室に到着する、その手前でタイミング良く鉢合わせしちゃったりなんかしてニヤニヤ狡獪した顔を見せられても今は……、
『ククッ、名前先輩、わざわざ俺に会う為に走って来たんです?』
「ひかる、」
『何でなん?』
「光は違うの?」
『は?』
「アタシは光に会いたかったのに…」
『………………』
今は皮肉言われたってそれしか出て来ないもん。冗語なんか要らないからって脳だって言ってる。
「昼休みね、光がさっさと帰ったじゃん?蔵に寂しそうだって言われて、本当に寂しかった」
『……………』
「授業つまんないし身にならなかったし、全部光のせいだからね」
さっき蔵に引っ付いたみたく光の背中に体重を預けてぎゅっと抱き締めたら甘くて酸っぱい香水の薫りがアタシの鼻を癒してくれた。制服越しに感じる体温だって、やっぱり光本人で気持ち良い。
『……名前先輩』
「うん」
『やらしいわ』
「え゛?」
『クックッ、褒めとるんやでええ女やーて』
「分かりにくいんですけど」
『あれや、胸キュンした』
「は、光が?」
『名前先輩が可愛らしー事ばっか言うんで胸がときめいてときめいてしゃーないんですけどー』
「アハハッ!馬っ鹿じゃん?」
今度は光が、蔵と同じ様にアタシの手を絡めてきて。本当に本当に蔵、ごめん。アタシの身体も心も光じゃなきゃ満たされないみたい。光が手を握ってくれただけで口が緩む。ドキドキする。その先に行きたくなる。
光はこんなアタシに気付いてるの?
『っちゅう訳でー』
「え?」
『続き、さっさとやらせて下さい』
「…露骨、」
『自分やって盛ってるくせに。部活が休みで喜んでるんやろ?』
「うるさーい」
『はいはい行きますよって』
歩きにくいったらありゃしない、なのにアタシも光から離れないし光もお腹の前で絡めた手を離そうとしないし、そのままゆっくりゆっくり図書室へと足を進める。たまに擦れ違う人が見てはいけないものを見てしまった感じで目を反らしていくのが可笑しかった。でも、何となく嬉しかった。
「アタシ明日光ファンに刺されるかもしんない」
『せやったら俺も……無いか』
「うわ、超失礼」
『名前先輩相手にする物好きとか俺くらいやろ』
「…光が物好きなら、それで良いや」
『あー胸キュン』
「それしつこいから」
たった1時間の図書委員の仕事も放棄した光と、性に餓えた光に付き合うアタシ、昼休みと何ら変わらない図書室の風景だけど違うのは、邪魔が入らない様に鍵を掛けたこと。
蔵、アタシ後悔しないから。
アタシも光にときめいてるんだもん。
(20100128)
←