特別視って。
理由なんか要らないでしょ?
R17
desire.4 一衣帯水
切れた訳じゃないのにジンジンする舌はアタシの欲求を現してくれてるのか。厭なことばっかりしてくれる光をキッと睨むとまた面白そうに笑って『お先に』って背中を向けられた。
「あ……」
『あれ、財前は?』
「先に教室帰るって…」
『そうなん?せやけど名前は寂しいっちゅう顔やな?』
「そ、そんなこと…」
そんなこと、あるかもしれない。
光に置いて行かないでって言いそうだったもん…アタシが素直過ぎる口だったら絶対言ってた。だってさっきまで追い掛ける為の光の背中が、離れる為の背中になったから。嫌だって思った。
口にしなくて済んだのは、何処か天邪鬼な性格のお陰で、光の笑った顔を見たらちょっとだけ悔しくて。光はアタシの反応見て可笑しいだけかもしれないから。
「……蔵?」
『うん?』
「アタシ、…ごめん。何でも無い」
『ハハッ、何でも無いならええけど気になるなぁ?』
「ほんと何でもないから!」
『分かった分かった、教室戻ろか?』
光ってどういうつもりなのかな?
そんな事蔵に聞いたって仕方ないのに。蔵は何も知らないし況してや最低だと思われたくないくせに何言っちゃっての、って話しじゃん。
『せやけど名前?』
「え?」
『ちゃんと考えて、後悔したらあかんで?』
「――――――」
ほな行こか、ポンと背中を叩いた蔵だけど後悔するなって…アタシと光のこと、やっぱり気付いてるの?気付いてるから、アタシが後悔するって…?
「く、くら!」
『早よ行かな置いてくでー?』
「、」
何も無かったみたいな顔して、返事のタイミングも上手く交わされた気分。光も蔵もどういうつもりなんて分かんないけど、アタシは別に後悔なんかしないもん。
彼氏とじゃなきゃ駄目なんてそこまで純情なわけじゃない。誰でも良いかと言われたならそうじゃないけど光なら…光とだったら嫌じゃないし後悔もしない。さっきだってアタシの身体は光しか見て無かった。
だから平気だもん…、改めて考えることなんか何も無い。
「ま、待って、本当に置いて行かないでよ!」
『ほな早よおいで』
「今日の蔵、ちょっとだけ意地悪?」
『そんな事ないんちゃう?』
首を振って暗雲みたいなモヤモヤを吹き飛ばして、蔵には申し訳ないけど光の背中だと思い込んで飛び込んだらやっぱり晴朗的な嬉々が溢れてきた。
光は特別なんだ、言い訳とも取れるような理屈を並べてると『名前は甘えたやなぁ』なんてお腹の前で蔵が両手を絡めてきて。
必然とぶつかる顔と背中、右と左の手から伝わる体温はどんなに思い込んだって光とは全く違うもので、早く光に会いたくなった。
(20091224)
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