似た者同士だね、なんて笑えない
想い出の中を彷徨うのは滑稽だ、って…
R17
desire.12 閉ざした口唇
「話しって何…?」
手を引っ張られて連れて来られたカフェで、アイスコーヒーを乱暴に掻き回す彼は周りの声を遮断して氷の音だけを聞いてるみたいだった。
手首に感じた彼の体温に、改めて光とは違う人だって思うだけだったアタシは、本当にもうこの人を愛してないんだって。
『俺、別れたくない』
「、え?」
『じゃなきゃわざわざ来ないし』
「……………」
きっと文句でも言いに来たんだろって思ってたのに。未だストローで氷を弄る落ち着きの無さはそれが本心だって言ってるんだと思う。
まさかそんな事言ってくれるとは、ちょっと思ったけど殆ど無いと思ってた。嬉しいか嬉しくないかって言われたら勿論嬉しいけど…
「ごめん…」
『何で?その好きな奴ともう付き合ってんの?』
「……フラれた、けど」
『じゃあ良いじゃん忘れろよそんな男』
忘れたいよ。忘れられるならこんな艱苦な想い忘れたい。
『名前には俺が居るじゃん』
この人もアタシと同じ。何で今になってそんな事言うの?馬鹿じゃん。散々放ったらかしにしといて何今更。
「自分だって、他に好きな子居たんじゃん?」
『違っ…、わないけど、やっぱりお前が良いって思ったんじゃん…』
「じゃあ何で直ぐに言ってくれなかったの?フラフラして不安なって、だけどアタシの事なんか構ってくれなかったじゃん!」
『、その心配してくれるとこが、愛されてんだって嬉しかったんだよ馬鹿!』
「――――――」
『悪かったと思ってるよ、だからやり直そうって…』
そんな不器用な愛なんか分かんないよ。アタシもこの人も、何でこんな言葉足らずなんだろ。
もしアタシが待ってるだけじゃなくてちゃんと「会いたい」って言ってたなら変わってた?この人が『好きだよ』って言ってくれてたら変わってた?
…分かんない。変わってた、かもしれない。だけどアタシは光を知ったから。この人の言葉が光だったら良いのにって置き換えたくなる。
「もう、遅いよ」
『遅くないって』
「だってアタシ、好きだもん!叶わなくても光が好きなんだもん!!」
『――…………』
この人を好きになって知った、我慢する事。待ってる事。
でも光を好きになって知った、愛したいって事、愛されたいって事。報われない哀愁も切なさも、小さな事で嬉しいと思える気持ちも、会いたいが我慢出来ない事も、色んな思いを知った。あの体温を知ってしまったら、知らなかった頃には戻れないんだって。
『……出直して来る』
伝票を持って席を立ったあの人は光みたく背中だけを見せたけど、その背中を追い掛けたいなんて気持ち、どこにも無かった。
光、逢いたい。
(20100423)
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