R17 | ナノ


 


 10.



時雨が降りしきれば
誤魔化せたの…?


R17
desire.10 届かない背中


『不良娘は何で遅刻したんやろなぁ?』


2時間遅れて向かった学校、教室に入れば父親顔負けの蔵が怒った様に呆れた様に厭味を浮かべてきた。だけど今のアタシにはごめん、ただ一言だけしか口に出来なくて。ズキズキ痛む心臓を抱えて蔵を見ると思い出す、

(後悔したらあかんで)

あの単語を。


『……名前、』

「ごめん、今話したくない」

『ハァ…ほな独り言やと思って聞いて』


別に後悔してる訳じゃない、彼氏に後ろめたさはあっても思うほど罪悪感は無かった。だから光と寝たことに後悔なんかしてない。
言い訳ばっか並べて俯くアタシに、蔵はわざとらしい溜息を吐いて机に凭れて言った。


『財前は名前に彼氏が居るん分かってたっちゅう事、頭に置いとかなあかんで』


そんな簡単な事知ってるよ。知ってる、けど…何で今改めて言う必要があった?
裏を返せば“浮気だから遊べる関係”、切り捨てられてる気がした。蔵は酷い、そんな事言わなくて良いのに。アタシが悩んでたの分かってて言ったんでしょ?独り言なら口にしないで胸中だけで収めてよ、酷い、酷い、最低。

……けど本当は知ってる。
アタシが光に本気になるって分かってたから蔵は最初から釘を刺してくれてたんだって。今も本当に本気になるなら覚悟しろって、アタシの事を考えてくれてるんだって。酷いのはアタシ、彼氏っていう特別な枠組みを無視してるから…こんな事になったんだ。


「蔵、」

『ん?』

「アタシ、光が好き、なんだと思う」

『………………』

「だから、彼氏と別れる、今更だけど…」

『……うん』


頑張れなんて言ってはくれなかったけど、机に突っ伏したアタシの頭を撫でてくれた手は、味方だよって言ってくれてる気がした。

口にしてやっと分かった好きの気持ち。順序も何もかも間違ったけど、アタシは彼氏より光が良い。光が、好き。好きだから抱いて欲しかった。


「………………」


顔を上げて携帯を取り出せば、アタシからは1週間ぶりに彼氏へメールを送った。1週間ぶりでも“別れよう”って。
もっと早くこうしておけば良かったのに。本当は多分、彼氏に依存してたわけじゃなくて1人になるのが怖かっただけ。
だけど今は光が居るから、光が好きだから、大丈夫。


『やっぱり居ると思った』

「、ひかる」

『名前先輩もほんま好きっすね』


あれから授業中、彼氏から返って来たメールは『何で?』一言だけだった。好きな人が出来たから、悪びれ無く言ったアタシに彼も呆れたのかな。それから返事は無かったけど寂しいなんて全然無くて、昼休みにこうして図書室で光を待ってたアタシは、完璧に光に気持ちが向いてるんだって分かった。
好きだから触れたいって、思ってる。


『せや、部長に何や言われた?小言とか』

「ひかる…?」

『何です?』


当然みたくアタシの首に腕を巻き付かせて髪に、首に、頬っぺたに口唇を落として、そんな光を見たなら風船が張り裂けるくらい期待は膨れた。光だって、アタシが好きでしょ?嫌いな相手とはわざわざ遊ばない、じゃん…?


「あのね、抱いて欲しいんだけど…」

『何言うてるんです?そんなん今更、』

「違うの!そうじゃなくて…」


最後まで、ちゃんと。
アタシを見て、アタシを抱いて。

言わずとも理解したらしい光が立ち上がると、鍵を閉めてくれるんだって思ったのに、


『それは、無理すわ』


他当たって下さい
静かに出て行く背中を追い掛けるなんて出来なかった。


「他、なんて…無いのに…」


光が良いのに
光じゃなきゃ嫌なのに
光しか無理なのに


「ひか、る…っ、」


遅すぎた想いと届かない想いがこんなに苦しいなんて知らなかった。

(名前先輩)

(あれや、胸キュンした)

光、アタシじゃ駄目なの?アタシは本当に遊び相手なだけだったの?

切なさが堪え切らなかったアタシは、声を上げて泣いた。



(20100423)


prevnext



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -