08.
ずっと彼女を独占出来ると思ってた。
誰にも顔は見せへんし、誰にも話し掛けたりせえへんし、逆に彼女から愛想を振りまくこともない。それなら俺だけが特別な位置で特別な存在になるやろって。ずっとやなくてももう少しは大丈夫やって信じてたのに。
『、白石君』
「うん?」
『元気ない…?』
「え?」
『いつもより、地面ばっかり見てる』
「……………」
表に出してたつもりは無かったのに名前ちゃんだけやなく謙也も外方向きながら憂愁を見せるあたり普通に出てたんやろう。
完璧完璧って囃されたって結局当人はまだまだ甘い男やねんなぁ。
せやけどそれより、
「…ありがとう」
『、』
「俺ん事ちゃんと見ててくれたんやな?そういうん嬉しい」
名前ちゃんだけやなくて謙也もやけど謙也はもう何年も付き合いあるし。それに恋敵になるなら尚更理不尽やねんけどな。やけど彼女がただ俺の話しに付き合ってくれてただけやなくて、しっかり向き合ってくれたんやなって思うと救われた気がした。
『し、白石君!』
「うん?」
『アタシも白石君には凄く感謝しつる、から』
「俺に?」
『うん…アタシ白石君見てると変わりたいなって思ったし、白石君のお陰で前髪だって切ろうって思ったし…だから、』
「うん。ありがとう」
『―――――』
「名前ちゃんのお陰で元気出たで?」
『……本当に?』
「本当」
『そ、か…』
照れ臭く嬉々な顔で笑う彼女は前髪を切る前と変わってへん。本人の言う変わりたい、が何を指してるんか今はまだ分からへんけど、俺が好きになった彼女は彼女のままやったからそれで良えんちゃうかって。
独占欲沸いて凹みましたとかそんな独り善がりな事は口に出来ひんけど、俺は俺なりに彼女を好きなまま彼女を見守って行きたいなって思った。
「せやけど名前ちゃん?」
『うん?何?』
「名前ちゃんが可愛いって皆喜ぶやろうしこれから大変かもしれへんなぁ」
『そ、そんな訳ないよ…!』
「あるある。直ぐに彼氏出来たりするかもしれへんし…そうなったら俺が一番ショック受けんねんけど。なぁ謙也?」
『俺に振るんかい!』
ハハハッ、なんて笑いながら冗談混じりにアピールなんかしてみたけど、
『……………』
「、名前ちゃん?」
彼女は180度顔を一変させてしもた。
眉間にシワを寄せて口を一文字に食い縛って、何かに怒りをぶつけるような見えない何かに歯痒そうにしてるような…。こんな表情、する子やったんやって、驚いた。
っちゅうか俺がさせたんやんな。そんなに不味いこと言うた…?
『アタシは、彼氏作らないし…』
「、」
『好きな人も要らない…アタシは恋愛なんかしたくない…』
「………………」
『………………』
今、それ以上突っ込むのはあかんて脳が察してた。彼女の艱苦を解けへんのも苦しいけど、同時にフラれた気分になったのはキツかった。
近付いたと思ったのに離れてく。寧ろ全然近付けてへんかったんかもしれん。
彼女は、何を思ってるんやろう。
きっと謙也やって同じ事考えてる。
(20100318)
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