09.
恋愛なんかしたくない
単純な言葉ほど効果的なもんは無いんやって思った。現に俺は何て返せばええんか分からへんくてただ瞠若するしか出来ひんかったし、白石なんか…。
あんな顔、初めて見た。
『なぁ白石』
「なん」
『き、機嫌悪そうやな…』
「別に。謙也はちゃんと授業受けや」
『……………』
1限が始まって、名前の言うた言葉の意味何やったんやろって白石に聞いてみたかったのに。
別に、そう吐き捨てた白石は触れてくるな、そんな拒絶を俺に見せた。授業くらい真面目に受けろっちゅうんは今に始まった事ちゃうねんけど…そういうんやなくて、白石は自分の殻に閉じこもってしもたような、誰も寄せ付けたくないような、猛然な眼で黒板を見てた。
今の白石には普段の温厚さは無くて、名前の変異に反応するクラスメイトも名前の言葉も全て害悪に受け取るんやろう。
何とかしたくても、俺には無理なんやと思う。寧ろあんな顔を見せられた手前、俺が無理や。
「ちょっとええか?」
『え?』
「白石の事やねんけど…」
授業が終わって白石が教室から出て行ったのを確認したら名前の席へ足を向けた。少しの時間が経てども見慣れへんらしい周りは今も喧騒が消えへんくて、俺ですら溜息が出そうになった。
『白石君が、どうかしたの?』
「…今朝の事気にしてるみたいやねん」
『今朝?』
「あー…か、彼氏要らんとか、言うとったやつ」
『……………』
こっちはこっちで俯いてしもて、なんやねん…俺が悪者みたいやんか。俺やってこれでも気使てんのに…。
「な、なんちゅうか、心配してたで!」
『え、』
「さ、最近仲良くなったやろ?せやから悪い事言うたんやろかって、気にしてた、っちゅうか……」
ほんまは違うとこに理由あるんやろうけど俺の言い訳の精一杯はこれが限界や。これ以上上手い嘘は考えつかへん。
「せ、せやから!何となく白石ん事フォローしたってや!」
『そっか、白石君が…』
「お、おお」
『分かった、有難う』
「、」
『白石君のとこ行って来るね』
「た、頼むで!」
『忍足君も有難う』
「………………」
待って
白石を追って走っていく背中を見ると引き止めたくなった。押したのは自分やのに、初めて顔を見て有難うを言って貰うと慾が…出た。
「ハァ…勘弁して欲しいわ…」
白石が意外な奴に気取られてるから俺も気になっただけ、そう信じたかったのに空回りした右手が否定を語る。
白石とか関係無くて、俺も名前が好きなんやって。白石やなくて俺を見て欲しいって、気付いてしもた。
(20100414)
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