07.
おはよう
声を聞くまで本人やとは思えへんかった。声やって、まだほんの数回しか聞いた事無いのに。
『…………』
『白石、君?』
『…名前ちゃん』
『え?』
『ほんま、可愛くなったな?』
前髪を切って女らしくなって、可愛くなった名前に気を取られて見逃してしまいそうんなったけど……白石?さっきまで嬉々一色な顔してたくせに何で一瞬、歪んだん?
『し、白石君、お世辞言っても何も出ないから…!』
『うーん?お世辞ちゃうしなぁ、謙也もそう思うやろ?』
「え、あ、ああ、」
『ほら見てみ?謙也は照れ性やから上手く言葉にならへんけど名前ちゃんに釘付けや』
『違うよ、困ってるだけじゃん…』
『ハハハッ、謙遜し過ぎやで』
せやけど流石は白石っちゅうべきなんか。直ぐに何でも無いって顔で笑って、曇った表情さえ気のせいみたく思える。今は本気で笑ってんのかもしれんけど、ほんまは造った顔やったりするんか?
何を思ってるんかは分からへんし他人に繕うのも白石なりの気遣いかもしれへんけど吐き出すことも大事やねんで。
『謙也』
「、」
『ボーッとしてたら置いてくで?朝練始まってまうわ』
「別にボーッとなんや、」
『名前ちゃん、上の空な謙也は置いて先に学校行こか?』
『、でも』
『アイツ足には自信あるから大丈夫やって』
『そうなんだ』
「っちゅうか置いて行く必要ないやろ!!」
少し、悪態付いたような笑いで俺を見る白石はいつも通りで。あくまでソレを貫くとこを見ると、俺には何も話してくれへんのやろなって。そら人に話す程の大した事やないとか、実は太陽が眩しかったとか、そういう落ちかもしれんけどな。
「な、白石」
『なんや』
「……何でもない」
『うん?まさか置いてかれるんが嫌で気引かそう、とか?』
「ちゃ、ちゃうわ阿呆!」
『名前ちゃんがやったんなら可愛いけど謙也がやってもな…』
「せやからちゃうって言うてんねん!!」
肩を揺らして笑う白石と、隣で控え目につられた名前、2人で眼を合わせて柔らかい空気が流れると別に俺が心配するような話しちゃうかもしれへんって思った。況してや白石やしな、誰かから心配されるような男ちゃうし。
『ほな学校行こか』
『うん、忍足君も一緒に行こう?』
「―――――、おお」
白石の事は杞憂やねん、そう信じて名前へとスイッチを変えた。髪型だけでこんなに変わんねんなって、白石やないけどちょっと大きい黒目を見ながら可愛いと切に思った。
今日また話しが出来たことも、素顔が見れたことも、俺にとっては過ぎたる1日やった。
(20100311)
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