06.
人間て幸せやとこんなにも楽しいんやなぁって染々実感するとか。大人になりきれてへんでも俺も子供のままちゃうんかなって思った。あー、せやけど単純に全てが楽しいとか面白いとか楽観視してしまうんは十分子供の証拠なんやろうか。まぁ、どっちでもええやんな。
『白石おはよう』
「謙也?珍しいなぁこっちの道使うなんや」
『コンビニ寄って来てん』
昨日、水を飲んで来る言うて戻って来た謙也はどことなく浮き足立ってる気がしてそれは今日も健在やった。何かソワソワしとるっちゅうか良い意味で構えとるっちゅうか。
それすら幸せ気分の欲目やとしたら俺も大概やっちゅう話しや。それもあり得へん訳やないから困るわ。
せやけどなぁ…ずっと気になってた女の子に少しずつ近付けて、ずっと隠してた素顔を見たら誰やって幸せボケくらいしたくなるやろ。況してやそれがめちゃくちゃ可愛い顔やったら尚更。俺しか知らへん、その優越感がまた俺を乗せるんや。
『し、白石君』
そうやそうや、それや。そこらに居る誰よりも可愛くて覚束ない様な大人しい、それでもって照れ臭く視線をぶつけるその顔――…、え、何で名前ちゃんの顔が見えるん…?
『おはよう…!』
「……………」
『白石君…?』
「、」
昨日は俺が前髪をピン止めして見えた顔やのに今日は普通に晒されてる。長かった前髪は黒が大きい眼と眉の間で収まってて。
それだけで雰囲気がまるっきり違う彼女は今日も俺に新しい“可愛い”をお見舞いしてくれて、俺はまた恍惚になるしか出来ひんかった。
『えっと…』
「、堪忍、名前ちゃんおはよう」
『…うん』
このまま見惚れてたいのが本音やけど黙りな俺を見る名前ちゃんは表情が曇ってくから。それもまた可愛いねんけど不安な思いさせたらあかんもんな?
俯いたって分かってんねんで、顔が緩んでること。挨拶だけやのにそんな嬉しそうにされたら伝染するやろ?
「名前ちゃん前髪切ったんや?」
『お、可笑しいかな…』
「せやなぁ…可笑しいかもしれへん」
『え、』
「また一段と可愛く見えるって、可笑しいやろ?」
『もう白石君…!』
「アハハッ、本気やから怒らんで」
挨拶だけや言うたって向こうから声を掛けてくれた事が嬉々でしかなくて、今この時間に同じタイミングで同じ場所に居合わせた事も奇跡みたくおもえて、二度目の素顔が俺の最上級の愛を連れて来た気がした。
俺は俺で緩む口を誤魔化してると、
『あの、忍足君もおはよう…』
『、お、おはよう』
「………………」
気配を消してました、そんな謙也が俺と同じ眼で彼女を見てた。
そっか、そうなんや。
浮かれてしもて忘れてたけど、もう俺だけの特別は無いんや。
(20100226)
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