04.
昼休み、初めて名前ちゃんを誘ってみると今度は逃げたりせえへんかったけど耳まで真っ赤になってた。
照れ臭そうな反面『白石君と、一緒に食べても良いの?』とか、申し訳無さを垣間見せる姿はちょっと切なくて。俺には気を使う必要も無ければもっと、甘えて欲しいのに。まぁ、今は前髪でぼんやりしか目が見えへんけど可愛い顔見せてくれただけでも喜ぶべきなんかな。
「なぁ名前ちゃん?」
『は、はい』
「いっこ質問してもええかな」
『、質問?』
「名前ちゃんは彼氏居てへんの?」
彼女が気になるなら確かめておきたいネタやった。そらある意味もう遅いかもしれんけど。引き返せって言われたって気になる気持ちは止めれる訳ちゃうし。
どうかそういう相手が居ませんように、お天道様に祈りを託した。
『あ、アタシに、彼氏なんか居る訳無いよ…』
「そら良かったーっちゅう話しやけど何でそんな言い方するん?」
『、だって…アタシ地味だし、暗いし、可愛くないもん…』
「………………」
『白石君だって分かってて聞いたんじゃないの…?』
結果的には安寧やけど何やろなぁ。勿体ない言い方ばっかしてると思う。
可愛いの基準なんか誰と比較して言うてるん?世の中には女の子も男もごまんと居るんやから顔つきも人それぞれ、タイプも人それぞれやねんで。それに暗いとか地味とか言うたって逃げ足が速い茶目っ気みたいなとこもあるし、俺ん事を王子発言したりするひょうきんなとこやってあるのに。それは俺からしてみれば誰でも無い彼女の個性であって、良いなぁって、口角が緩むとこやった。
せやから他の誰かと比較することなんや無いと思うねんけど…。
「名前ちゃん」
『、』
「可愛くなれる魔法掛けてあげよか」
『、え?』
「ちょっと目瞑っててくれる?」
『へ、』
確かズボンのポケットにヘアピン入れてた筈や。前髪が目にかかって鬱陶しそうな財前の為やってんけど財前に使うよりも有効活用やんな。
挙動不審に首を動かす名前に思わず吹き出して、頬っぺたを持ってそのままー、なんて言うたら自分より何倍も柔らかい肌に心臓が跳ねた。女の子ってほんま狡いと思う。言葉も行動も、容姿も性格も身体も、全部が全部武器になんねんもん。一々反応してしまう男の身にもなって欲しいわ。
そう口を尖らせてしまいそうになるのを堪えて彼女の前髪を頭のてっぺん辺りで固定した。その間、指を滑る髪がまた俺を刺激してる気がしたけど、せやけど――――
「……………」
『し、ししし白石君!こ、こんなの恥ずかしい…!』
それ以上に、前髪が無くなって隠れてたモノが見えると瞬きすら忘れてしまいそうになる自分が居てた。
『白石君、の、除けて良い?っていうか除ける、よ―――?』
ヘアピンに手を掛けた彼女の手を掴んで。直ぐに顔を隠そうとすることに首を振った。
「もう少し、このままで居って…?」
『、』
「お願いや…」
『白石、くん…?』
お願い。もう少しだけでええから俺に名前ちゃんの顔を見せて。昼ご飯なんかどうでもええ、こっち見てて。
「……あかんわ」
『、あかん?』
「俺、見惚れてしまう」
『っ!』
「めっちゃ可愛い、ほんまに可愛い」
『し、白石君、からかわないで…!』
「からかってへんし本気やから、名前ちゃんは喜ぶところやねんで?」
『そんな事言われても、』
「はい笑って、当然やって自賛して」
『ふ、アハハッ、何それー』
初めて顔を見せてくれた彼女が笑う、俺は彼女に二度目の恋をした。二度目が一目惚れとか、そんな話し誰も信じてくれへんのやろうけど解るのは俺だけで十分。
昼休みが終わって謙也と喋ってる彼女を見て思った。暫くは俺を特別にさせて欲しいねん。
(20100127)
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