03.
白石からあの子の話しを聞いて、俺自身も気付けば視線の先には名前が居った。
ああいう子なんやと何も分かってないのに決め付けてた俺は名前を見る度に新鮮になれて、意外性に噴き出すこともあった。
例えば、何をするにも無関心で1人がええんやろうって思ってたことを覆したのは、窓が開いてた日、身震いしたと思えばポケットからカイロを取り出して一生懸命上下に振ってたり。
クラスメイトが冗談で喧嘩を始めて、椅子が倒れて大きな音が聞こえた時なんや思い切り肩を跳ねさせて恐る恐る振り返ってみたり。笑いながら本気やないことを確認したら大袈裟な溜息ついて安心、したように見えた。
無関心なんや誰が決めたんや?
こんなに人間味あるのに。
名前を見てて楽しい反面、少し自分に腹が立った。俺って小さい男や。
『あ、謙也』
「なんやねん早よ飯食わへんの?」
『それやねんけど今日名前ちゃんとご飯食べよ思ってん』
「え?」
『謙也も一緒に来たらええねんけどなぁ、名前ちゃんが謙也見て恐縮してしまわへんかなっちゅう心配がなぁ…』
「……つまり俺が邪魔っちゅうことやろ!さっさと行けや阿呆白石っ!」
『ハハッ堪忍な、もう少し名前ちゃんが俺に慣れてくれたら謙也も一緒に、な!』
「ええから早よ行け!」
ここ最近堪えてたもんが爆発したみたいに休憩時間も昼休みも白石は名前にべったりやった。
白石が『名前ちゃん』『名前ちゃん』言うから俺もつられて名前って呼ぶようになった。
白石が名前の事を気に掛けるようになったから俺も気になり始めた。
せやから俺はともかく、白石が頑張ってるのは当然やし応援やってしたい。せやけど……
「………………」
窓から見える白石と名前のツーショットは俺を悄然とさせて、ガラスに触れた手からも全身に冷気が駆け巡る様な、孤独感が走る。
今までテニスだけに眼が行って馬鹿言い合ってた白石が遠いところに行ってしもた感覚が静寂を起こしてるんか、それとも、名前が白石にだけ心を開く様になってるのが暗影にさせてるんかは分からへんけど。とにかく、今は身体中が寒くて仕方なかった。
それから予鈴が鳴ると白石より先に名前が戻って来て、机を漁っては次の授業の準備をしてた。白石は何処に行ったんやろう、そう思いながら眺めてると不意に掌から擦り抜けた教科書は床へと落ちて。
考えるより先に動いた身体は名前の教科書を拾い上げた。
「、落ちたで?」
『、』
「ほな…」
教科書を差し出してみたけどビクンと身体を揺らす姿を見たらやっぱり白石やないとあかんのかなって知らしめられて、
『お、おしたり、くん……!』
「え?」
『ありが、とう…』
「――――――」
せやけど別にそういう訳ちゃうんかなって、初めて呼ばれた名前に気恥ずかしくなった。
「…べ、別にええで!」
一気に寒さが引いたのはやっぱりそういう事なんやろうか。
(20091222)
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