02.
何やモヤモヤする、消化しきれへん想いは日毎に募って何でやろうって自分を見つめ直してみた。
勉強のこと?
ちゃうちゃう、そんなんちゃう。
ほなテニス?
ちゃう。そういうんちゃうねん。
……あ、俺何見てるん?最近視線は何処向いてた?教室の隅っこに座るあの子、いつもあの子に眼が行ってた。そか。俺あの子が気になるんや。それがほんまに恋愛感情かは分からへんけど気になってしゃーないねん。
俯いた顔は何を隠す為?
顔に掛かる髪の覗けばどんな笑顔を見せてくれる?
せめて俺にだけは、見せて欲しい。そう思った。
“恋煩いかもしれへん”
謙也に伝えるとアイツは呆気に取られた顔してたけど、口にする事で俺は確証を得たんや。彼女のことは何も知らへん自分やけどほんまはきっと可愛え子なんやって、表現が下手なだけで良え子なんやって、理想を創ってた。
せやけど理想像だけで終わらせるのは癪やし彼女にも失礼やねんから。俺は、名前ちゃんに近付いた。
「ちょっとええかな?」
『、』
「話し、して貰えへん?」
『っ……』
「同じクラスやし、な?」
『っ!!』
「ちょ、何処行くねん!」
昼休み、時間はたっぷりあると見越して声を掛けたのに前髪で眼を隠した彼女は『ひっ…!』と小さく悲鳴を上げて教室を出て行った。
つまり逃げられた、っちゅう訳やけど。堪忍な、意地悪しとるんちゃうけど俺も諦め悪いねん。まずは一言だけでもええから会話させて。俺に声を聞かせて欲しいんや。
「悪いけど、鬼ごっこは苦手やないねんで」
前髪を掻き上げて大きく酸素を取り込めば気合いが入って、直ぐ様彼女の後を追った。教室を出て廊下を出て、途中でユウジに会うたら『何やってんねん』って突っ込まれたけど今忙しいんや。ユウジに構ってる場合ちゃうねんでーって。
それから階段を降りて、そのままずっと降りて、1階まで行くと校庭の桜の木の前で息を整えてた。
あんだけの距離を全力疾走したらそら疲れるやんな?っちゅうか意外と足速いねんな、やっとひとつ名前ちゃんの事知れた、それが嬉しい。
「鬼ごっこは終いやで?」
『っ、』
「なぁ、そない逃げたくなるくらい俺が嫌い?」
少し、意地の悪い言い方やと思う。そう思ってたって本人に面と向かって言える人間なんやほんの一握りやろうに。
せやけどそれが会話に繋がるなら、俺はどんな手やって使たる。
「今すぐ消えて欲しいくらい俺ん事嫌いなん…?」
木に寄りかかって、背中を曲げて肩で息をする彼女へ、体育座りをしたあと首を傾げてやると物凄い勢いで首を横に振ってくれた。
それは嫌いやない、って否定してくれてるん?
『し…』
「うん?」
『白石君が、声掛けてくれるの…ビックリした、から』
「――――――」
『あ、アタシ、恥ずかしくて、何て言ったら良いか、分かんなくて……し、白石君て皆の王子様だもん…!!』
俯いたままで表情は分からへん。せやけど木から手を離した彼女は両手で拳を作って必死に弁明してくれたから。
「クッ…ククッ……ハハ、アハハハッ」
『、』
「俺全然、王子様なんやちゃうねんけどなぁ?」
『あ、でも…』
「俺はなぁ、何処にでも居る普通の男や。名前ちゃんの事知りたいっちゅうな?」
『え、』
「これからゆっくりでええから、話ししたってくれへんやろか?」
『………………』
口を一文字にした彼女は黙ったまま小さく頷いた。
今日彼女を少し知って、やっぱり理想通りやなって実感した俺は彼女の声の可愛さに泣きたくなるくらい頬が空へと上がった。
桜の木が葉っぱも無いのが残念やけど、名前ちゃんが居ればええか、なんて。
(20091214)
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