flap away | ナノ


 


 01.



あの日、
珍しく白石がぼーっとしてて、肘を着いたまま心此処にあらずっちゅうか。俺が「白石きしょいで!」なんや冗談言うても『せやなぁ…』とか。
一応構えてたのに1人で阿呆みたいやって、拍子抜けした俺は白石の前の席に座るなり肘を着いて同じポーズを取ってみた。

授業合間のたかだか10分しかない休憩がやけに長くて、そう感じるのも初めてで。今までは授業10分、休憩50分にしてくれたらええのになぁなんて思ってたのに。

肘を着いたまま見渡す教室はいつもより広い気がして、見知ったクラスメイトでさえ赤の他人に見えて静寂が襲った。そんな中、漸く“普通”の声が聞こえて暖につられて振り返った。


『謙也、』

「白石!やっと帰って来たんか!」

『は、何の話しや』

「え、や、何って言われると困るんやけど」

『まぁええわ。なぁ謙也』

「なん?」

『俺なぁ…恋煩いかもしれへん』

「、は?」

『好き、なんかなぁ』

「―――……」


せやけど白石はやっぱり“普通”やなくて、一番前で右端の女の子を見つめてはハァ、と深い息を溢した。


『そんな話した事も無いねんけどなぁ、眼離せへんっちゅうか、気になるんや』

「……………」


恋愛という恋愛をした経験も無い俺から見れば優渥な眼をした白石は大人に見えて羨ましかった。でも白石が同じレールから外れて行った様で不安もあった。

せやけど1番思ったのは、


『謙也、あの子どんな顔して笑うんやろな?』


白石が指す相手が、クラスで浮いてしまうタイプの子っちゅうんが意外でしかなくて。
前髪は眼に掛かる長さやし、横からも顔を隠すみたいに長い髪。正直、俺は記憶の中を探しても会話した覚えも無かったんや。
せやのに何であの子なんやろ。不思議に不思議が重なって、いつの間にか俺自身も視界へと探すようになった。

多分、この日、俺も名前を好きになったんやと思う。白石と同じ日に。


『俺ん事見てくれへんかな』


あの時は頷けへんかった言葉も、今ならきっと簡単に首を振れるんやろう。


(20091201)


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