13.
呆気に取られた白石が眼の色変えて追っ掛けて来るかなって思たけどそうでも無いところを見ると諦めた、っちゅうか訳ありでそれが俺にとって大事な事やっちゅうのを理解してくれたんかなって、謝意を覚えた。
世やけど俺の走る理由が名前に関係してるって分かったなら、また結果は変わってたんかな。
白石にちゃんと告げへんかったんは意地悪でも独り善がりでもない、俺自身、把握出来ひん曖昧な事を伝えるなんや名前にとってもお節介やろってそう思ったから。
これで間違って無いんや。言い訳とも取れる思いを信じて名前の家まで全力で走った。
「、」
一度だけ大きく深呼吸をしてインターホンを押すと指が上下に揺れて。最後に見た名前の背中から、それに映った哀愁が俺の指まで伝った気がした。
《はい、どちら様ですか》
「あ、俺、名前さんのクラスメイトで忍足言うんですけど、」
《忍足、君…》
「、名前?は、話しがあんねんけど…!」
《……ごめん、今は誰にも会いたくないから》
当人がインターホンに出て安堵が生まれたのも一瞬だけで、自分の殻に閉じ込もってそこから一歩も出たくない、そんな拒絶の色を見ると俺も眉を下げずには居られへんかった。それだけあの言葉は名前に重く乗っかってる、何の意味も持ってない訳ちゃうんやって。
理由、それこそ俺には分からへんけどそれを知る為に来た訳ちゃうねん。当然知りたいと思う欲はあるけど俺は、自分の気持ちを伝えに来たんやから。
会いたくない言われてそうですかなんて帰られへんねん。
「鬱陶しいって、思うかも、しれへん」
《、え?》
「別に出て来んで良えねん、そのままで良えから聞いて!」
《………………》
「俺は名前ん事何も知らへん、白石よりもっと、何も知らへん…せやけど俺は、名前ん事信じる!!」
《、》
「名前が俺と初めて喋ってくれた時、有難うって言うてくれたやんか…嬉しかったんや」
あんな嬉々を見せて素直に有難うを言えるのに、悪い人間な訳ない。俺はあの声に惹かれたのに、況してや人殺しなんか…
「せやから俺は、名前を信じるし名前の味方や!絶対、絶対約束する!名前ん事何も知らん人間の言う事なんや気にせんで良えやろ?白石やってまた―――」
言いたい事は決まってたのに上手く言葉が出て来おへん。そんなんで名前に伝わるんやろか、憂色で声まで震えてしまいそうやったけど、
『忍足君も、白石君と同じ事言ってくれるんだ』
有難う、顔を見せてくれた名前は赤い眼で笑ってた。
「お、俺、」
『……でもね、』
幾ら鈍い俺でも泣いたんやって容易く分かるのに可愛くて、気持ちが伝わったんやって嬉しくて、小さい身体が愛しくて、抱き締めたくなったのに…
『嘘じゃないから、そんな事言わないで』
結局名前は俯いてその一言を吐き捨てた。静寂を抱えて哀感を訴える眼にこれが愁嘆場って言うんやろかとか、声を出せず阿呆な事を思ってる間に静かにドアは閉じられた。
嘘やないから、そんな顔せんで
なぁ。ほんまやで…?
(20100514)
←