12.
昨日、白石君がテニスしてるとこ見に行ったんだ
昼休みに聞いた台詞は俺を感慨にさせて今朝の凹んでた自分が嘘みたく満たされた。例えそれが恋愛対象やなく友達としてでも、友達の仮面を被ってたとしても好きな子と2人でご飯を食べて部活を見に行ったなんて聞いたら幸せも噛み締めたくなるっちゅう話し。
オマケに今日もまた見に来てくれるとか。あかんて、顔締めたいのに緩んで緩んでしゃーないわ。
「ほな5分休憩するでー!」
タオルを首にぶら下げて適当に顔を拭いたら360度辺りを見回す。彼女は何処から見てくれてるんやろって、部活中もずっとソワソワしてドキドキして落ち着かへんかったんや。休憩中んなったら少しだけでも何や話したい、そう決めてたから。
「、謙也?何やってんねん」
彼女らしき姿は見当たらへん。それに反してフェンスに凭れる謙也は呆けた顔をして突っ立ってたからちょっと気になって。謙也が間抜け面なんはいつもの事やけど、何となくいつもと違う気がしたんや。
『し、白石』
「5分したら練習再開やで?今の内に水分補給しいや?」
『……………』
「何黙ってんねん、腹でも痛いん?」
『……お、俺、』
「うん?」
『、行くとこあんねん!今すぐ行かなあかんねん!』
「は?」
『すまん!明日からまた頑張るから今日は見逃してくれ!!』
「、謙也!?」
眼を伏せてどないしたんか思えば、眼が合うた瞬間好き勝手言うて走ってく。
ほんま、どないしたんやアイツ…。ダラダラする事はあってもあんな風に部活を抜ける事なんや今まで無かった。それも勢いのまま真顔で訴えるとか。それだけ、謙也にとって大事な何かがあるっちゅうことか…何も話しを聞いてへん俺には理由なんか考えたって分からへんけど、今更アイツを追い掛けたところで足が自慢な男に追い付ける気もせえへんし、謙也のあの眼を信じて見逃したろうと思った。
「にしても……」
名前ちゃんは何処に居るん?
嘘を吐くタイプやないし…そら急用が出来たーっちゅうパターンもあり得るしそれならしゃーないけど。一緒に帰る約束した訳ちゃうしな。
「あーあ、寂し…」
期待してた分、残念な気持ちは結構でかかった。約束はしてなくてもあわよくば一緒に帰ろって誘おうと思ってたし。
ま、彼女が悪いっちゅう問題でもない、謙也は居てへんでも最後まで部活頑張ろか。そう思うと不意な突風に吹かれてタオルが地面へ流された。
「、悪戯な風やな…」
タオルを拾って砂を叩くけど、何でか、胸騒ぎがした。
彼女が居らんこと、謙也が何処かへ行ったこと、突然の風、落とされたタオル。雲で覆われた太陽に眼を細めて、俺の杞憂であることを祈った。
大丈夫、やんな。
(20100502)
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