flap away | ナノ


 


 14.



あれから結局30分程で帰って来た謙也に「もう良えんか」って声を掛けたけど、らしくない愁眉な顔で笑いを向けるだけやった。
謙也があんな顔するなんや大雨か雪か、若しくは槍でも降るんか思ったけど…そんな冗談を言うより、謙也をそうさせた理由が気になった。


「謙也、おはよう」

『、はよ…』


翌日、朝練も無くて教室へ続く階段を登ってると背中から分かる哀感を背負った男が見えた。昨日引き続き今日も眉を下げたままの顔は俺を視界に入れてるのに見えてへん。こっちを見たまま違う何かを映してる、そんな感じやった。


「なぁ謙也、何があ――」

『!』


引き止めて“何か”の理由を聞きたかったのに、足を止めてくれへん謙也を追って教室に入るとそこはいつもより数段喧騒としてて。

人殺しは学校来るな
黒板にはそう書かれてた。


「…なんや、これ」

『………………』


殺伐としたクラスメイトの眼と声は普段からは想像出来ひんくらい冷たくて痛い。その痛みに耐え切れへんのは俺自身で、黒板に書かれた言葉だけで人はこんなに一変するんやって思うと黙ってられへんかった。


「何の冗談やねん!ここまで来ると笑えへんしそれに乗っかる自分等もどうかしてるわ…誰が書いたんや、さっさと消『あ……』」

「、」


俺が一喝しようと思うとあの視線はこっちへ向いて、途端後ろには青い顔を歪めた名前ちゃんが居った。


『ご、ごめんなさ…、』

「名前ちゃんっ、」


何で彼女が謝るんか分からへんかった。何で真っ青になって、何で涙溜めて堪えてるんか。
せやけど逃げる様に走ってく彼女を追い掛けようとした時、口唇を噛む謙也が尻目に見えてやっと、線が繋がった気がした。

黒板に書かれたのは否応なしに彼女の事で、謙也は俺より先にソレを知ってた。せやから昨日部活を抜けて彼女に会いに行って、でも謙也も理由は聞けへんくて、何も出来ひんままこの有様やっちゅう事。
昨日名前ちゃんが部活を見に来てくれへんかったのも、謙也が浮かん顔をしてたのも、何となく分かった。ついでに、謙也がそこまで気にする理由も。


「謙也、俯いてないで行くで」

『、せやけど』

「このままで良え訳無いやろ?」

『……………』


早く彼女を追い掛けて、今度は2人でちゃんと話しを聞こうって言うてんのに謙也は一歩引いたみたく顔を上げへん。俺やって彼女の言葉に勝手に傷付いて凹んだ身や、昨日どんな話しをしたんかは知らへんけど気持ちは分かんねん。せやけど分かるからこそそういうん、腹が立つ。


「謙也の好きはその程度なんか?」

『え、』

「名前ちゃんが好きなんやろ?せやったら信じたらなあかんのちゃうんか?」

『―――――』


何でこうなったんか、過去に何があったんか、訳が分からんのは俺も謙也も同じや。それでも名前ちゃんが一方的に悪いとか何か間違いを犯したとは思えへん、そやろ?


『…すまん、』

「謝らんで良えから行くで!」


多分彼女は黒板を鵜呑みして学校を飛び出す筈、それなら門を抜けて右か左か分からへんなる前に追い付けば良い話し。足も気持ちも前へ前へ進んでるのに何でやろか。ふっと思った事がある。

同じ女の子好きなるなんか、ほんまにあるんやなぁって。
もしかすると俺も謙也もフラれて終わりかもしれへんけど、どっちかが選ばれたらどちらかは報われへん。そんなん切ないし、俺は自分も幸せになりたければ謙也にも幸せになって欲しいねん友達として。でも…それより今は、彼女を好きになった謙也が嬉しいって。アイツ見る目あるんやなぁって、少しだけ口角が上がった。
変な話しやな?


「あ、名前ちゃん待って!」


口を真一文字に正して校舎を抜けると彼女は門の方やなく、初めて会話をした桜の下に居って。確かに俺と謙也は彼女の背中を追い掛けてたのに本人は自ら話しを聞いて欲しいとでも言う様に桜の下で待ってた様に見えた。


『名前、』

『…昨日はちゃんと話せなかったけど、もう全部言う、から』

『……………』

「無理せんでって言いたいねんけど、大丈夫なん…?」


自嘲気味に笑う彼女はゆっくり頷いて、今度こそ、


『アタシ、自分の子供殺したから』

「、え……?」

『だから白石君がアタシを庇う理由なんか無いんだよ』


今度こそほんまに、俺からも謙也からも距離を置いて風に揺らされる髪を押えた。


(20100517)

本日いっぱいでアンケート〆切ります。


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