10.
「…重い、なぁ」
たかが10分、授業と授業の間たったそれだけの時間でも教室に居りたなかった。それは彼女のせいやない、単に俺が、彼女に拒絶されたんやないかって被害妄想を抱えたから。
例えば彼女から声を掛けられとしても次の言葉が怖くて聞きたくないし、彼女が俺を空気みたく擦り抜けていくのも、どっちも受け止める自信が無くて。それがどんなに情けないとしても俺は彼女と同じ空間に居るのが艱苦でしかなかったんや。
1人廊下に出て窓から吹き抜ける風に当たれば、俺が幾ら一憂したとしても世界は変わらへんのやって生温い風が嘲笑ってた気がした。
『白石、くん』
「…………………」
せやのに、何で彼女は俺を追い掛けて来るん?拒絶したいなら、近付かんかったらええやろ?
「…謙也にお節介焼かれたかな」
『お節介じゃなくて友達思いなんじゃないの…?白石君だってそうでしょ?』
「、――――」
きっと彼女は八つ当たりを受けた謙也に心配を感化されただけ、それは安易に分かるのに。
“アタシに声を掛けてくれた白石君も、アタシに言わせれば優しくて大切な人なんだけど”
眼を細めてしまいたくなるくらい眩しいのは、暖かい光りやったから。拒絶なんか、彼女に限ってある訳が無いって何で信じてあげられへんかったんやろ。
「……ごめんな?」
『え?』
「俺、ずっと名前ちゃんの味方やから」
『、』
「過去に何があったんか、どんな思いをしてきたんか、俺には分からへん。せやけどずっと味方で居るから、信じてくれへんかな」
彼女が俺に光りをくれるなら俺は彼女を支える影でありたい。情けない俺に手を伸ばしてくれたんやから、今度は俺の番やんな?
『どしたの白石君、急にそんな、』
「知ってて欲しかったんや、それだけ」
『変なの、でもありがとう』
照れ臭く笑う彼女を見ると思った。やっぱり俺は好きなんやって。
これから先も彼女の言う恋愛は無いかもしれへんけど、想うくらいは勝手にさせてもらってもええやろ?
多分、止まらへんもん。
「謙也」
『、白石…っだ!』
「世話焼きやなお前は」
教室へ戻って呆けてた謙也の頭を小突くと“バレた”眼を見張って顔を背ける。阿呆な男や、ほんまそう思うけど、
「悪かったな」
余計な事させたんは俺やから有難うって。
それだけ彼女が絡むと余裕無くなるんや、謙也もウケるやろ?完璧の仮面なんや存在せえへんねん。そんなんはただ、周りが俺に理想を重ねてるだけや。
『、ほ、ほんまやで!』
「ん?」
『白石が俯いてごっつ眉間シワ寄せて変な顔してるからこっちが可笑しくなりそうやってん!』
「変な顔?」
『こーんな顔して間抜け面拝まされたら気色悪くて適わんっちゅーねん!』
びよーん、とそれこそ間抜けな効果音がありそうなくらい左右に顔を引っ張る謙也は開き直った様に舌を出す。
「せやなぁ」
『、白石…?』
「間抜け面直す為にも放課後は気合い入れなあかんな謙也」
『、』
「大丈夫や謙也。心配せんでも俺がちゃんと練習メニュー改めて考えたるから」
『かかか堪忍!嘘やで白石!白石はほんま格好良えねんて!せやからいつもと同じで良えから!』
「あー先生来た来た」
『白石!』
男相手にいつまでも気落ち出来る俺やないし、生意気を向ける謙也には目には目をっちゅうこと。
こんな馬鹿なやり取りが面白い、そう思える時間はずっとこれからも続くんやと思ってた。今日までは。
(20100421)
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