「ええ……」
外はまだ良い時間だと言っても紫が残ってて、だけどカーテンを閉めてしまえば真っ暗を作り出す部屋。ブン太の部屋を堪能したくても何も見えないし、それ以上にドキドキ心臓が高鳴る。
『名前、行くぞ』
「で、でも、」
『眼、瞑るなよ』
「そんな事言ったって………ひ、いやぁあああ゛っ!!」
バンッ、突如テレビ画面いっぱいに張り付いた幽霊というか化け物というか、作り物だって分かってても恐怖心は半端ない。
ブン太の家に上がるなり間を置かず流されたホラー映画に心臓は壊れそうに煩くて、正直ブン太の部屋で嬉しいーだとかそんな余裕微塵も無かった。
『名前叫び過ぎ』
「だだだだって、怖いじゃんか…!」
『お前なぁ、まだ序盤の序盤じゃん』
「そんな事言われても…!」
本当ならブン太のお母さんに何て挨拶しようとか、お父さんに会えるのかとか、弟くんにはお姉ちゃんて呼んで貰えるかなとか。要らない心配と期待まで巡らせてたって言うのにお母さんは弟くん達とお出掛けで留守だし、お父さんは残業だし。
加えてブン太の部屋を堪能出来ないままホラー映画なんか見せられて、アタシが怖がるのケラケラ笑って本当にどんだけ。そりゃまさかブン太がベタベタコテコテの恋愛映画なんか見るとは思わないけど良いとこバラエティーものだと思ってた。
あわよくば、少ない少ない可能性に賭けて恋愛映画の延長でさっきのキスの事、理由とか聞きたかったのに。こんなんじゃアタシ、キスとかそんな事より夜トイレに行けるか心配んなってきたじゃん馬鹿ブン太…!
『名前ー』
「なななに…」
『怖いなら、手繋いでやって良いけど』
「は、」
『“は、”じゃねぇよ、そこは可愛く“繋いで”って言うとこだろぃ』
「、」
半ば無理矢理に掴まれた右手に、まさかブン太のが怖いとか。怖いなら初めからこんなの見なきゃ良いじゃん、突っ込みたくなったけど、
『お前は女として終わってる』
とんでもない一言に眉が思い切り寄った。この期に及んでどんな台詞なの。終わってるってね、失礼っていうか虚しくなるんですけど!
『あのなぁ、男が好きな女とお化け屋敷入りたい心理とか分かんねぇの?』
「え……」
『普っ通分かんだろ!ばーか』
何なのその一方的な言葉。
キャーキャー怖がる女の子が引っ付いてくれるの待ってるって?そんな身勝手な男の心理なんか知らないってば。
だけど、
「…じゃあ、離さないでね」
『当然』
しっかり絡めてくれた手が愛しくて、素直に肯定したくなったアタシはブン太の言う通り馬鹿なのかもしれない。
だって“好きな女”とか……。
自惚れちゃったんだもん。
(20100420)
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