視界に映すのはグロテスクな風景とお化けだけど、頭の中で広がるのはブン太の事だけだった。女の子って本当単純で都合良く出来過ぎ。直ぐ隣に温もりがある、それだけで怖さ半減、嬉々は上昇。
この時間がずっと続けば良いのにって、そう思った。(ホラーが延々と流れてるのは変な話しだけど)
『…終わったな』
「終わったね」
『………………』
結局主人公もお化けに殺されて世界の終わり、そんなエンディングでテロップが流れるけどブン太と来たら恨めしそうにアタシを見てくる。そんな表情で真っ暗の中テレビの光りに顔半分だけ照らされたブン太の顔が、寧ろそっちのがホラーっぽいんだけど。
『名前、お前つまんねぇ』
「は?」
今度はつまらないですって?
この男は今日何回アタシを貶せば気が済むっての?気に入らない顔してる割には手を離してくれないくせに。
『だって途中から全然怖がんないじゃん』
「それは、」
『俺の作戦台無し!超面白くないっつの』
策士と言えば俺なのに、口を尖らせて拗ねるけど怖くなかったのも、癒されたのも全部ブン太のせいなんだけど?
『あーあ、今日こそ言ってやろうと思ったのに止めた』
「、言うって何を?」
『馬鹿には教えてやんねー』
「いだっ!」
ぎゅうっと鼻を摘まれたら漸く手と手は離れて部屋に電気の光りが広がった。鼻は痛いし電気は眩しいし、手が寂しい、とか。
そっちこそアタシの気持ちなんてこれっきし分かってない馬鹿野郎じゃん。
『バームクーヘン食う?』
「食べる」
『うんうん。名前の遠慮無いとこ嫌いじゃないな』
「……それ褒めてんの?」
『んー多分』
「多分てどうなの、どうせなら嫌いじゃない、じゃなくて好きって言えば良いのに」
ブン太部屋専用の小さい冷蔵庫からバームクーヘンの箱を取り出してテーブルに置くと瞠若したみたく大きな眼をパチパチ見張る。
なに、アタシ変な事言いました?
だけどそれでも箱を見ないで器用にバームクーヘンを取り出す当たり流石っていうか。ブン太の食べ物に対する執念は尋常じゃないって改めて実感する。
『何お前、好きって言われたいの?』
「嫌いよりはそっちのが良いじゃん褒めてる感じするじゃん」
『フーン』
何でだか箱の中に備わったフォークでバームクーヘンを突き刺すとニヒルに小馬鹿にする様な笑顔。ちょっとムカつくけど、ちょっと格好良いその顔。
『そっか、名前は言って欲しいんだ俺に好きだって』
「、」
『ばーか!言ってやんないって』
「な、」
ペロッと舌を見せたら幸せそうにバームクーヘンに噛り付く。
1人でバクバク食べてんのもムカつくし、アタシの分のフォークが無いのもムカつくし、何よりこの俺様態度が超ムカつく…!!
「アタシ!」
『はー?』
「アタシは言うから!」
『何をだよぃ』
「アタシはブン太が好きなんです!」
『、は、』
「ブン太が自己中で、バームクーヘン食べるって誘っておいて1人だけ美味しい顔してたとしても生意気でも好きなのは好きなんだからしょうがないじゃん!!」
ムカつく、勢いで何言っちゃってんの。でも止まんなかった。
アタシは何言われてもブン太が好きなの止めらんないし、言ってくれないならアタシは言ってあげるよなんて間違った対抗心。好きなの、本当に好きなんだよブン太が。
『……お前、どんな告白だよ』
「煩いな本当の事じゃん!」
『勇ましいよお前はマジで』
「な、何それ!だってブン太ってば自分1番で、今日なんかアタシの事ばかばか言って来るし、アタシの誕生日祝ってくれたり優しくて、男の子の顔してみたり格好良くて、」
『ばか。褒めるか貶すかどっちかにしろよぃ』
自分でも何言ってるか分かんなくてクルクルパーにでもなった気分だけど、
『とりあえず、チューでもしとく?2回目だけど』
お菓子を食べる時みたく揚々としたブン太の顔を見たら、とりあえずバームクーヘン味のチューをしようと思った。頭を冷やすのはその後で良いや。
(つか男の台詞取るなって)
(また何?)
(俺が今日言わないって言ったじゃん察しろよ)
(知らないもんそんなの)
(マジ鈍感、重い頭は飾りかよ)
(そっちだって、アタシが真田とキスするの嫌だったくせに)
(は?)
(嫉妬してたんでしょ?)
(本っっ当、名前可愛くねぇ!絶対好きって言ってやんないから)
(じゃあ嫌いなの?)
(……………すき、だけど)
END.
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完結です。
本日はブンちゃんの誕生日だということで完結させたくって気合い入れました。ちんちくりんで微妙な文章ではありますが、誕生日おめでとう!(^O^)
このお話は終始ふざけてるような、馬鹿やってる感じで友達以上恋人未満の雰囲気を書きたかったのでそれが少しでも伝わっていると嬉しいです。
ここまでお付き合いして下さりありがとうございました!
(20100420)
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