「今日は何食べるんだろ」
課題を提出をしに職員室までダッシュしたアタシは、テニスコートまでルンルンなスキップだった。だってもう嫌な事は済んだし2日続けてブン太と遊べるとか浮かれたくもなるじゃんか。浮かれ足千鳥足(何か違うな)で今日のデザートデートは何だろうって、ニヤニヤ考えながら神々しいテニス部のドアをノックする。
『あ、今日も来たのかい』
「幸村、ブン太居る?」
『ちょうど良かったゲーム中なんだ』
「は?」
『まぁ皆も名前で十分だろ』
「や、何…?」
アタシはブン太を呼んで欲しいだけなのにドアから顔を出した幸村は素晴らしく強い力で腕を引っ張ってくる。ニコニコ笑って女の子みたいに綺麗な顔して綺麗な手してるくせに骨がミシミシ言ってそうな握力って一体。っていうかゲーム?皆でゲームしてるから終わるまで待てってことなの?
「ね、幸村、何なの腕痛いんだけど」
『おー名前来たんか』
「仁王……、ブン太居ないじゃん!」
『ブン太ならお使いじゃ』
「お使い?」
『練習中にドーナツ食った罰かの』
「どんだけ…」
『じゃから、今はブン太待ち』
らしいっちゃらしいけど、練習中にまでお菓子食べてどうすんの。ほんの数時間くらい我慢すれば良いのにさ、どうせガムは食べてんだし。だけどお使いって罰にしては軽いような…でも相手は幸村だもんね、単なるお使いじゃないかも…やだ想像したくない。
「じゃあアタシも此処で待ってて良い?」
『っていうか名前は景品だから居てくれなきゃ困るんだけど』
「は、景品?」
『今、王様ゲーム開催中なんぜよ』
「王様ゲーム?あ、アタシが王様ゲームの景品てこと?!」
そうだ、ちょっと会話遡って…幸村が微妙ーーっに失礼発言してた気がする。幸村だから敢えてスルーしてたけど『名前で十分だろ』って。アタシでってどういう意味!十分ってどういう意味!
景品の前にそれこそ罰みたいな言い種じゃんか!
『そうだよ名前、2番と5番がキスをするっていう王様の命令だからね、仕方ないんだ』
「ちょっと待って!アタシくじ引いてないんですけど!」
『え、5番が名前だろ』
「何言ってんの!やだ止めてよ誰が勝手にそんな事…!」
『王様は俺だけど』
「………………」
幸村が王様って一番最悪じゃん…5番がアタシ指定なのも絶対的で何言ったって曲げないその感じ。
で、でも!幸村だって鬼じゃないしアタシがブン太の事好きなの知ってるし!もしかして2番がブン太だったり―――――
『因みに2番誰?』
『む、俺だ』
『名前良かったじゃないか真田だって』
しませんよね。
や、そんな冷静にショック受けてる場合じゃない。このままだと本当に真田とキス…え、ブン太としたことないのに真田と?まじで?真田だって普段なら『たるんどる!!』とか言いそうなのに何で仁王からブレスケア貰って飲んでんの……!!!って、まさか仁王が言ってた本当のお礼ってこれ?アタシが真田とキスしちゃうこと?
アイツ絶対ぶん殴る。拳に力が入ると帽子を取ってまじまじとアタシの目の前に立つ真田が。
「あ、あの、真田、ちょっと落ち着こうよ…!」
『心配無い、覚悟は出来ている』
「何の覚悟!」
『俺も腹を括ったのだ』
「自分の方が辛いみたいな言い方しないでよ…!!」
『一瞬で終わりだ』
「え、本当に、や、やだ、ちょ、待って―――!!」
『マジでちょっと待った!!』
「、ブン太―――?」
幸村だけじゃなく真田にまで嫌な物言いされてショック受ける猶予も無く鼻の穴を全快に広げた真田が迫って来て、アタシの乙女人生ももう終幕を迎えるんだ、リアルに泣きそうになるとブン太の赤い髪が見えた。瞬間、赤い髪は目の前の視界を全部埋めて口唇に、グリーンアップルの甘い、味。
「……………」
『ブン太、妨害は罰だよ』
『うるせ』
『んー間一髪じゃの、流石は愛ぜよ』
『仁王はもっとうるせー』
なに、なになになに。
ブン太が急に現れて、何か機嫌悪くて、真田はロッカーにぶつかってて、幸村は相変わらず笑ってて、仁王はもっとニヤニヤ笑ってて……
『名前』
「、」
『他の男より俺のが良いだろぃ?』
「―――――」
あああ、ブン太が世界で1番格好良いと思った。
(20100302)
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