ベリーベリーハイテンションっ(はぁと) | ナノ


 


 02.



教室からテニス部を見たり、課題を片付けてみたり、ソワソワしながら迎えた夕方。『お疲れ様でした』と窓の外から聞こえてたらドキドキする心臓を抱えてテニス部の部室へと向かった。

ヒューヒューと肌を刺す冷たい風だって今日は何でかいつもより暖かい気がして、学校が終わって怠い身体さえ軽くて、恋の力って偉大だと思った。


「ブン太居ますかぁ…?」


3回ノックをしたら中からは『どうぞ』と幸村の声がして、控え目に覗くと珍しいな、なんて。珍しいというか何ていうかテニス部に来るなんて初めてだけど。


『ブン太、お客さんだよ』

『お!やっと来たかケーキ!』

『今日は偉くブン太の機嫌が良いかと思えばこういう事か』

「、」


何、機嫌が良いって…まさかブン太もアタシと一緒に帰るの楽しみにしてくれてたとか?やだ、嬉しいけど周りがニコニコ(ニヤニヤ?)してるの見たら恥ずかしいし擽ったい、


『当ったり前だろぃ?ケーキ貢いでくれんだからよ』

「……………」

『部活あとのケーキは最高じゃん、今日何食おっかなー』


そうだよ、ブン太ってこういう男だよね。色気より食い気、恋よりお菓子。大体アタシだって一方的な片想いじゃん、期待するだけ馬鹿みたいだし期待した分だけ恥ずかしい。


『ウダウダ言ってないで早く行くぞ』

「ウダウダ言ってんのブン太じゃん、っていうかジャージで行く気?着替えないの?」

『は?着替えてんじゃん』

「え、今の今までジャージじゃなかったっけ…あれ、」

『妙技早着替えー』

「……妙技」

『うわ、その顔すっげムカつく』


要らない妙技だよね、っていうか妙技っていうのはハマり過ぎてるけど。その怪訝さはブン太本人にも伝わったみたいで理解力に乏しくないことには安心したけど、


『もういいから早く行くって言ってんだろぃ!』

「、」

『いってらっしゃい』


そんな事を思うのも束の間ってやつで、ブン太に手を引かれた左手に血液が集中してるみたいで指先が熱を持つ。


「ちょ、ちょっと、そんな急がなくたって、」

『善は急げっつーだろぃ?ケーキが俺を待ってんだよ』


意味違うし。ケーキはブン太だけじゃなくて買ってくれる人と食べてくれる人皆を待ってるんだってば。
文句は浮かぶのに言う気になれないのは繋がれた手が熱いせい。ケーキにしか目が無くたって、こういうのも楽しいとか…本当にふざけてる。


『俺、チョコレートケーキとミルフィーユとクッキーシューとチーズケーキ』

「え、そんな食べんの?」

『とりあえず、だし』

「おかわりする気なの…!」

『良いじゃん名前の奢りだし』

「だから遠慮しなさいよって」


カフェに到着するなりメニュー片手に店員さんを呼んで、こんな会話を聞いたら店員さんも若干引いてるけどブン太的には関係ないらしい。
レジに行くのが怖い、だけど言い出しっぺは自分だし、溜息を飲み込んでアタシもカフェオレとロールケーキを注文した。
っていうか結局何個食べる気なんだろ…これだとアタシはともかく、ブン太のパパとママって大変なんだろうなって。少食過ぎるのもあれだけど、アタシが子供を生む時には適度に食べる子が良いなとか、余計なことまで考えちゃったじゃんか。


『っつーかさぁ』

「え?」

『何でまた急にケーキ奢る急になったわけ?』

「べ、別に良いじゃん何でも」

『俺に好感度上げて貰いたかった?』

「ち、違うし!今日誕生日だからケーキ食べたかっただけだし!ケーキと言えばブン太かなって、ブン太なら付き合ってくれるかなって思っただけで他意なんか無いもん!」

『……………』


し、しまった。
何でアタシこんな可愛くないの。勿論他意はありまくりだし、ブン太だから誘っただけで好感度も上がるなら是が非でも上げたいのに…会話って、難しい。
それにブン太だって瞠若した次には眉を寄せて怪訝な顔しちゃってさ、やばいよね確実に。


「あの、ブン『お待たせ致しました』」


店員さん、そこ被るとこじゃないから。空気呼んで空気。
もういいや、とにかくケーキ食べて、食べて貰って機嫌直して貰おうかななんて思ってると、


『すみません、ろうそくとか貰えたりします?』

『一本で宜しいですか?』

『あー良いです十分です』

『少々お待ち下さい』

「ぶ、ブン太…?」

『………………』


黙ったままのブン太は並べられたケーキに手を出さず外方向いて。
直ぐにろうそくを持って来てくれた店員さんに頭を下げるとアタシのロールケーキを転がして真ん中のクリームの部分へと突き刺した。テーブルの上に添えられたマッチに火を点けるとろうそくにも火を灯して。


『馬鹿、そういうのは早く言えよ』

「……………」

『名前が言うの遅いせいだからな!これで我慢しろよぃ!』


ろうそくの火が、ブン太が喋る度にユラユラ揺れて、その灯りはブン太の顔を赤く染めた。火のせいに出来るなら、アタシが顔が赤いのもバレないのかな…?


「……ブン太、」

『何だよ』

「ありがと…」

『良いからさっさと火消せって!俺もケーキ食えねーじゃん』

「ご、ごめん」


まだ消したくない、名残惜しいけど、ふぅっと息を掛けたら独特の煙が鼻を刺してひとつ歳を重ねたんだって実感した。その余韻に浸るみたいにろうそくを眺めてると『誕生日おめでと』って小さい声が聞こえて、クッキーシューを頬張るブン太が昨日より愛しくなった。

(わざわざ真ん中に刺すことなかったかな)(違う俺じゃないアイツが悪い)(誕生日っつったらホールケーキなのに)(カットケーキとか俺がダサいじゃん)



(20091217)


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