『名前、』
「………………」
ニッコリ。営業用みたく可愛い笑顔を浮かべるブン太の掌はしっかりこっちに向けられて。口に出さなくとも分かるその意図にもう言葉は無い。
『早くガム』
「アタシが持ってなかったらどうすんの?」
『まじ使えねー』
「最悪」
『でも持ってんだろぃ?』
「持ってるけど…」
『さっすが!』
ガムを渡せば営業用なんかじゃなくて心の底から笑顔を向けられるもんだからコロッと騙されそうになる。っていうかもう騙されてるんだろうけど。
いつからかな、ブン太がアタシに懐く様になったのって。確か文化祭の準備係が一緒で、たまたま苺ポッキー食べててたまたま余った分をあげてから、だった。それまでは別にブン太の事好きじゃなかったのに。
“名前お前超良い奴!”
頭クシャクシャに撫でられたせいだ。一般的に女の子は頭触られるのって弱いと思うんだ。アタシだけじゃないよ、アタシが単純な訳じゃない、ブン太がわざわざ罠を仕掛けて来たのが悪い。
「ね、ブン太、今日さ、」
『あ?』
「一緒に、帰れたりしない…?」
『……………』
うわ、何その顔。
面倒くせーとか、何で?とか、笑ってるのに怒ってる顔。そこまで嫌がらなくても良いじゃんか。アタシだってショック受けるんだからね。
「……ケーキ、奢る」
『部室まで迎えに来いよ名前!』
「……………」
180度反対のその態度、本当に尊敬する。気分屋で私利欲強いのは分かってたけどテニス部より演劇部向いてんじゃないの?なーんて。
『お前なぁ、俺が一緒に帰ってやるって言ってんだからもっと嬉しそうな顔しろよぃ』
「ありがとーございますー」
『何だそれ』
「ブン太の真似ーっ」
『俺有難うとか言ってねぇし』
「そういう問題じゃないの!」
『まぁどうでも良いよ』
「は?」
『だから!とにかく迎えに来いよって言ってんだよ』
「わっ!」
『俺待たせたら許さねぇからシクヨロ』
「……頭ぐしゃぐしゃになったじゃん馬鹿、」
何ブイサインなんかしちゃってんの?格好付けてんの?可愛い子ぶってんの?
何でも良いけど、ぐしゃぐしゃにされた頭から顔にまで熱が下りてきたって話し。熱い、熱過ぎ、本当にブン太って馬鹿。
(嫌な顔なんかしてない)(名前が急に一緒に帰ろうとか言うから)(返事に困っただけだろぃ!)
(20091210)
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