無駄に広い観客席をぐるぐる回って、漸く掃除が終わったーなんて思えば部活も終わりを迎えてた。普段テニスをしてる時には意外と長く感じる数時間なのに、アイツが居ればあっという間で。まじでどうしちゃったの俺、突っ込みたくなるけどそんな事思うだけ無駄ってやつ。
だって行き着く先はどんなに言い訳並べて遠回りしたって“名前が好き”それしか答えはないから。
『がっ君!お疲れーっ!終わったね』
「…お前もな」
『あれ、がっ君優しい?』
「基本的に俺は優しーの」
『えー、アタシには冷たかったけど?』
「あー煩い煩い」
確かに俺、酷かったと思う。
だってアイツ見てると無駄に苛々してウザかったし。それが嫉妬だったって気付いてみれば格好悪くて情けねぇけどさ。今更優しく、とか、調子良い?
『ごめん嘘ー!』
「は?」
『アタシ分かってるよ、本当はがっ君が優しいことくらい』
「、」
『だからアタシ、がっ君が好きなんだもん』
「……………」
気安く好きだなんて言うな。侑士以外、本当に好きな男以外に簡単に言ってんじゃねぇ。
……でも、本音は嬉しいと思うとか本っ当だっさい。男のくせに女みたいにドキドキすんじゃん馬鹿。
「馬鹿な事言ってないで帰るぞ」
『え、送ってくれるの?』
「馬ー鹿、侑士と帰れよ」
『えー…がっ君と帰りたいなぁ』
「、」
『良いじゃん!一緒に帰ろうよー?』
「わ、分かったから引っ付くなって!」
『やったー!』
名前が誘って来たから仕方なく、名前がしつこいから仕方なく、言い訳ばっか考えてる俺は侑士を裏切りたくないんだと思う。
アイツが俺に何で懐いてんのか分かんないけど、幸せ反面侑士のことも引っ掛かって、良い人ぶる偽善者。本当仕方なくなんかじゃなくて喜んでんのに侑士は許してくれるのか?やっぱ普通にムカつくじゃん、な。
『ねぇがっ君ー?』
「何だよ」
『さっきから何か考え事?』
「は、」
『眉寄ってるよずっと』
せっかく一緒に帰ってるって言うのに侑士を思い出すとそればっか浮かんで。いっそ友情より恋愛だろ、男より女だって言えたら良いのに。俺って友達思いだかんなぁ、なんて優柔不断なだけなんだけど。どっちにしたって俺は負ける側なのに。
「何でもない、つか、名前ん家何処?」
『あーあそこー』
「、は?」
『あれだよがっ君』
「……………」
今ウダウダ考えたって無駄、話題展開しようと思ったのにさ。アイツが人差し指を向けた先は侑士の家。
『えへ、送ってくれて有難う』
「……………」
何だよ。俺と一緒に帰るったって、結局は侑士と会うんじゃん。これから侑士に会うから、帰り道は俺でも誰でも良いって?
何だよ、それ。
『がっ君がっ君、明日の朝も学校一緒に行こうよ?』
「……んな、」
『え?』
「ふざけんな」
『、がっ君?』
俺は侑士の代わりじゃない。
俺は名前が好きだけど、彼氏じゃない。
「何でだよ…」
『がっ君、』
「何で、侑士と付き合ってんだよ……」
『――――――』
俺が良いなら、何で俺じゃねぇの?侑士が良いのに、俺ん中入ってくんなよ…
侑士を考えてたフリして、吐き出した言葉は自分本位でしかなくて口唇を強く噛んだ。
(分かってる)(だけど分かりたくない)(俺を、見て欲しい)
(20091129)
←