「ハァハァッ……」
言うだけ言って逃げるみたいに走って、息だって切れて、しんどい。本心を溢してスッキリした筈なのに身体も心も重くてキツかった。
「まじで、何言ってんだよ…」
あんなの好きって言ってんのと変わんねぇじゃん。アイツも、理解出来ないって瞠若してた。
「あー…もう最悪…」
明日どんな顔で侑士に会えば言い訳?どんな顔で名前に会えば言い訳?
後悔ばっか過って。もし侑士と対等な位置であるなら良いとしても、フラれるの分かっててコレってあり得ねぇ。何なら今から侑士に一発ぶん殴って貰おうかな。そんな笑えない冗談を浮かべてると制服のポケットから振動で着信を告げる携帯。
「誰だよ……、」
“うざ名前”
携帯に表示された名前に肩が跳ねて、厭なドキドキが音となる。
出る、べきなのか。頭の整理が着くまで無視するべきなのか。
分かんねぇけど切れる気配の無い着信に、指先を震わせながら通話ボタンを押した。
「もしもし、」
《がっ君!今何処!?》
「ど、何処って言われても」
《侑士に家教えて貰ったのに居ないじゃんか!何処に居るの!答えて!》
「、落ち着けよ…」
今頃どんな顔してんだろ、そう思ったのに勢いが良すぎて一歩引く自分。
会って何言われんだろ。侑士に家聞いたってことは、もう侑士に話した?侑士も、怒ってんの?
憂愁だけが頭をフラフラ巡って、身体に力が入らない。もういっそ電話切ってやりたい、溜息と同時に外壁に凭れしゃがみこむと、目の前は真っ黒な影がひとつ出来た。
『見付けた』
「、」
『やっと見付けた』
携帯を耳に当てたまま、顔を真っ赤にして髪もぐちゃぐちゃにして、俺以上に息を乱してるのは名前だった。
うわ、何で居んの?まだ覚悟出来てねぇのに。まだ会う勇気、無かったのに。
『ちゃんと、説明して』
「…………」
『説明してくれるまで帰さないから』
「…………」
物凄い顔で睨むアイツはいつもみたくおどけてなくて少しだけ怖かった。本気をぶつけるのもぶつけられるのも、どっちも怖い。
分かってても、フラれたいなんて思う奴が居る訳ないじゃん。
『何とか言ってよ、がっ君』
「…何とかって、言われても」
『良いから言って!』
「おい、」
『アタシの事好きだって言ってよ!』
「名前、」
『好きなんでしょ…?』
「―――――」
制服の裾を力いっぱい握り締めたアイツの顔は今にも泣きそうだった。何でお前がそんな顔すんだよ。泣きたいのは俺であって名前じゃない。そんな風にされたら、期待、すんじゃんか。
「……名前、」
『…………』
「分かってんなら言わすなよ」
『え?』
「俺が、名前の事好きなの分かってんだろ?っていうかさっきの告白と変わんないし」
改めて聞いたって仕方ないじゃん。本当に俺が好きなら聞き流すくらいしてくれたって良いのに性格悪いって。
『本当に…?』
「馬鹿。まだ言わす気?」
『だって…』
「惨めになるからもう止めろよ」
平気なフリしてるけど嫌なんだ。フラれたくない、本当はフラれたくない。
だけど叶わない想いなんか早い内に消した方が良いからとっととフってくれ。もう、良いから。
『がっ君…』
「何だよ、まだ何かあんの―――」
『アタシも、がっ君が好き!』
「は、」
『好き!好き好き!好きだから!』
何でだか分かんねぇけど名前に抱き付かれて、抱き締められてる。
何でだか分かんねぇけど名前に告白されてる。
否、告白っていうか、また“友達として”のパターンだろ?分かったから、要らねぇからそんなの。
「気使わなくて良いから侑士んとこ帰れば?」
『違うの!アタシが好きなのがっ君なの!』
「え?」
『アタシと侑士、本当は付き合ってない!』
「………は?」
超惨めじゃん、惨めにも程がある。そう思ってると今度はまた突発的過ぎる言葉に頭がついてかない。
『アタシと侑士はね、本当はイトコなんだ…』
「、イトコ?」
『アタシ、大阪に居たんだけど、侑士のお父さんの病院が人手不足でね、こんな時期だけどお父さんが移動になって…がっ君に会いたかったからアタシもこっちに来て、侑士の家で皆住んでる、』
「ちょっと待った」
『え?』
「悪い、良く分かんねぇ…」
必死に平静を繕って考えるけどやっぱ理解不能。
つまり名前は侑士とイトコで、大阪に住んでて…じゃあ何だ、大阪の謙也って奴とキョーダイってこと?え、だけど同い年じゃん。は、双子?いや、それより俺に会いたかったって何だよソレ。
『だ、だから!前に謙也と侑士の試合を見に行ってね、そこでがっ君が居て…』
「居て?」
『一目惚れ、した…』
「……………」
『……がっ君?』
「それまじで言ってんの?」
『、まじ、』
「じゃあ何で付き合ってるとか嘘吐いたんだよ」
『え…侑士がそっちのが面白いって…嫉妬した方が、がっ君と早く上手くいくかもしんないし、そうしないとがっ君が恋愛に奥手だから自分の気持ちに気付かないかもしれないって』
じゃあ何だ。
侑士は俺の反応楽しんでただけってこと?俺が恋愛経験少ないから馬鹿にしてって?そもそも俺が名前を好きになるって踏んで、侑士の掌で転がされたって事じゃんな。
「……………」
『がっ君?』
「侑士まじぶん殴る!」
『ちょ、ちょっと待って!』
「何だようざ名前」
『アタシまでウザイの!』
「当たり前だろ!手の込んだ事してんじゃねぇ!馬鹿!」
『ご、ごめんてば!だけど、』
「だけど?」
『その前に、両想い記念に、ぎゅーってして欲しい…』
「………………」
何言ってんだよ馬鹿。
そんな事言われたら侑士殴る気失せるじゃん。
「…なぁ名前」
『うん?』
「イトコ同士でも、家族が居ても、一緒に住んでるって妬けるんだけどどうしたら良い?」
『!』
本当、嫌。
歯痒さと幸せを噛み締めて俺はアイツを抱き締めた。
(あーあ、)
(何だこの展開)
(不本意過ぎるけど、まぁいっか)
(がっ君!アタシ達眼帯カップルだね)(お前馬鹿なの?)
END.
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やっと完結です。
以前書いた時はすらすら浮かんで直ぐに書き終えたんですが、今回はどうしようかと考えてたり、企画と重なったりで引っ張ってしまいました。何はともあれ完結出来て良かったんですが、悩んでも何してもやっぱりがっ君を書くのは楽しかったりします(笑)
本当はもう少し可愛くて、そして大人なのかもしれませんが私のイメージではこんな感じです。ちょっと口が悪くて、恋愛に関しては不器用で若干鈍感。そんながっ君でした。
お付き合い頂き有難うございました!
余談。侑士のお父さんと謙也くんのお父さんが兄弟だと仮定して、さらに弟がヒロインちゃんのお父さんだと思って貰えたら…!因みに婿養子で(笑)
(20091129)
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