『あっれー、がっ君何やってんの?』
「…見て分かんねーの」
あれから放課後、跡部に『ざまぁねぇな』なんて笑われて丁度良いと掃除を押し付けられた。そんなの1年にやらせれば良いのに(人数だけはめちゃくちゃ居るんだし)、俺は片目だってテニス出来んのに本当ムカつく。
クソクソ、侑士も跡部も面白がってんじゃねぇよ。それなら自宅療養させろって話しだろ。
『何、掃除?ホウキ似合ってるよ』
「うっせー」
観客席なんて俺等には関係ねーのに何でホウキと塵取りとゴミ袋持って回らなきゃいけないんだよ。お陰で跡部のファンからは『あれって向日君じゃん?可愛いー』とか言われてまじムカつくんですけど。名前も名前で冷やかしなら帰れ。
『アタシ手伝おうか?』
「別に要らね」
『良いよ手伝う』
「要らねーから侑士でも見とけよ」
『だって此処を使うのはアタシ達だし綺麗になった方が嬉しいじゃん』
「…………」
『がっ君と一緒なら掃除だって楽しいよー?』
ヘラヘラ笑うアイツを見れば、好きかもなんてちょっと自覚した分、素直に嬉しいと思う自分が居た。何て言うか、何にしても“俺”を見てくれるのが…擽ったい。
「本当、物好き」
『そんなことないし』
「掃除がしたいって言う奴なんかそんな居ないだろ」
『アタシ部屋の掃除とか好きだけど』
「部屋は別だろ!それでも意外だけど」
『え?』
「名前の部屋、服とか散乱してそうじゃん」
『しっつれいねがっ君てば!』
わざと貶して、それに逐一反応するアイツが面白くて。素直になってみればこんなに見方が変わるんだって、やっぱり好きになってる自分が居るんだと思った。
さっきのさっきまで鬱陶しいとか、俺の相手する暇があれば侑士の相手してろよって思ってたのにさ。今考えたら嫉妬だったのかなぁって…うわ、俺女々しくて気持ち悪ぃ。
『言っとくけど!アタシの部屋綺麗だもん』
「フーン?」
『休みの日になると掃除してるし、月一で模様替えしてるもん。がっ君塵取りー』
「超意外。面倒臭いって親に掃除押し付けてそうなタイプなのに」
俺の手からホウキを奪い取ったアイツはせっせと地面を掃いて、ガムのちり紙やらゴミを纏めてた。それに俺が塵取りを向けてゴミを集めて。何だこれ、アイツじゃねぇけど楽しい、かもしんない。
初めての共同作業?あー今の無し、無し無し!やっぱ俺キモい。
『お言葉ですけどねー』
「何」
『侑士だって部屋見て綺麗だって言ってくれたんだから!』
「――――――」
適当な会話、それも楽しいって思ってたのに塵取りを持つ手が固まって動かなくなった。
侑士、名前の部屋行ってんだ。そりゃそうだよ付き合ってんだもんな。彼女の家くらい行く、じゃん。
「……………」
『がっ君?場所変えるよ?』
「おぅ…」
今更だけど。本当に今更過ぎるけど。
何でお前、侑士と付き合ってんだよ。
口に出来ない悪声は、また俺の心臓を揺らした。
(掃除だって侑士見る為じゃん)(何期待してんの)(馬鹿みてー)
(20091110)
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