結局、コンビニには向かわず構内の売店へ行ってみたけど眼帯も目薬も売ってなかった。
ていうか、正しくは眼帯が売り切れ中、目薬はドライアイ様の一般的なものしか無かった。面倒臭いけどまぁいいや、片目じゃテニスもヤル気しねぇし朝練はサボって眼科行くかなって。
「ってことで朝練パスすんな跡部」
『アーン?何だと?』
「眼見れば分かるだろ?病院行くんだって」
『貴様サボる気か』
「どう考えても正当な理由じゃんよ」
そりゃ“サボり”って意味を全く持たない訳じゃないけど。だけど物貰いは確実なんだし目くじらを立てられる筋合いはない。
『物貰いだか何だか知らねぇがそんなもんは気合いで何とかしろ』
「は?」
『向日、てめぇにゃ根性が欠けてんだよ。気合いで治せ!』
「気合いで病気が治れば世の中病院なんてねぇし」
『……………』
そりゃそうだ、後味悪そうな顔をした跡部に手を振って、鞄を抱えたらテニスコートを出た。
跡部ってたまに(じゃなくていつもか)変なんだよな、変っていうか天然。世間知らずなとこ多くくすに自分が正しいって思い込んでたりするし、実は俺等のが苦労してたり。そりゃテニス部とか生徒会は良くやってる(いややりすぎか)と思うし尊敬出来るとこだってある。だけどやっぱ変わってる。
「ま、それが跡部だもんなー」
ブツブツ独り言をぼやきながら眼科に到着して、保険証を提示するとお決まりに『お名前を呼ぶまでお待ち下さい』の台詞。待合室は携帯使用可の文字を見た俺がポケットを探りながら腰を掛けようとした瞬間、
『あれ、がっ君!』
「、」
『凄い偶然!』
「……………」
既に携帯を持って椅子に座るあの女。
何で、お前が此処に居るんだよ。
『がっ君その顔物貰い?実はアタシも物貰いなんだよーほら右目』
「へー」
『うわ、興味無さそ』
「ねぇもん」
『せっかく同じ日に同じ病気になって同じ時間に同じ病院に来てるって言うのに冷たーい』
「あーお前の言い方はいちいちめんど――、て、ちょっと待て」
『えー?』
敢えてスペースを取って椅子に座ったのに、わざわざ横に座り直してくるアイツを見ると何でこんな懐かれてんだろって思う。
気持ち悪いくらいの偶然に愕然し過ぎて名前の言葉を危うく流しかけたけど。
「お前、俺に移したんだろ!」
『は?』
昨日、名前の眼に入った睫毛取ってやったもん。絶対あん時だ。
自分で取れば良いのに無駄に頼んでくるはずだよ。どうせ物貰いになるの分かってて俺の事嵌めただろこの馬鹿女…!
「絶っっ対お前じゃん!俺17年生きて来てこんな眼腫れたことねぇもん!」
『あ、アタシが悪いって言うの!?それを言うならアタシががっ君に移されたに決まってるし…!』
「ふME1##!」
『がっ君!』
「名前!」
『がっく『ゴホンッ!!』、』
「……すみません」
ほら見ろ。アイツのせいで看護師に睨まれたじゃんかよ。本当名前と一緒だと良い事ない。
怒らたのだって、眼が痛いのだって、全部全部お前のせいだかんな!
『怒られちゃったね』
「誰のせいだよ」
『アタシ悪くないもん』
「はぁ?」
『だけどー、』
元凶は自分だって少しくらい自覚しろよ。文句は幾らでも浮かんでくるのに、
『良いじゃん、お揃いで!』
「―――――」
何も気にしない、へらっと笑うアイツの顔見たら文句は声にならなかった。
それどころか心臓が跳ねた、とか。
「……良くねぇよ」
そんなの絶対あり得ない。
(名前が可愛い?)(ときめいた?)(無い無い、まじで無い!)
(20091002)
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