『なぁがっ君、』
「あ?」
『眼、どないしたん?』
「め?」
『瞼腫れてんで』
「は?瞼?げえっ!何だこれ…!」
『はははっめばちこやな』
アイツが転校して来た翌日、朝練の為に部室で着替えてると侑士に左目をトントンと叩かれて、若干痛みがあるような違和感があるような、そんな感じで鏡を覗くと左右の眼の大きさが明らか違ってた。
これからまだまだ腫れてしまいそうな瞼に気分はブルーで、今日は朝練せず眼帯と目薬買いに行かなきゃなんねぇのかと思うと超面倒臭かった。
「まじ最悪ヤル気失せた」
『2、3日経てば直ぐ治るて』
「片目でテニスとか出来ねぇじゃんか」
『せやなぁ…がっ君は筋トレかロードしたらええんちゃう?スタミナ無いし丁度ええやん』
「うわー超他人事じゃん侑士…」
『他人事やしなぁ』
「……………」
あの女に引き続き侑士までこんな態度とか無い。そりゃアイツに比べれば侑士は良い奴だけどさ。たまに感じ悪いとこあんだよな。
『そういえば名前、昨日どうやった?』
「どうって…」
『岳人と同じクラスや聞いて安心してたんやけど皆と打ち解けてたん?岳人も世話焼いてくれたんやろ?』
「何言ってんだよ侑士。世話焼くってレベルじゃねぇよ…!」
ジャージを羽織りながら思い出したかの様に話題転換する侑士に、俺も昨日1日を振り返ると軽く青筋が浮かびそうになる。
『どないかした?』
「アイツあの馬鹿、携帯に登録する時“クソクソがっ君”て入れやがった」
『ぶっ。そらえらい可愛えなぁ』
「可愛くねぇよ!全っ然可愛くねぇ!」
『女の子の茶目っ気やでがっ君』
「アイツの場合茶目っ気じゃ済まされないね」
『厳しいなぁ?』
「当たり前だろ!」
1限が終わった後は移動教室も無くてまぁ良かった。名前も大人しく授業受けてたし。
昼休みだって弁当抱えて教室出てったから侑士と食べたんだと思う。だから俺に被害はない。だけど問題は放課後だ。放課後、部活にも行く暇無く居残りで課題をやらされた時だ。
(がっ君、暇ー)
(課題やれ)
(えへへっ、分かんなくて)
(写すだけじゃん分かんないじゃなくてヤル気ねぇだけだろ)
(ヤル気はあるけど)
(……………)
(えーがっ君無視?シカト?)
(……………)
(がっ君、眼ごみ入ったかも)
(……………)
(痛いー!いたいいたいいたーい)
(ああ!もううるせー!!眼洗うなり鏡見てゴミ取るなりしろよ!)
(やーだ取って)
(は?)
(がっ君が取って)
(…何で俺が、)
(じゃなきゃ課題邪魔するからね!)
もう十分邪魔になってんだよ馬鹿女。
ハッキリ言ってやりたかったけど早く取れと言わんばかりに上を向くアイツに文句言ってやんのも面倒臭くなって。(どーせまた鬱陶しい返事が返ってくるんだろーし)
(…睫毛入ってんじゃん)
(通りで痛い筈だね!取れた?)
(取れた)
(ありがとがっ君!っていうかぁ、)
(あ?)
(今ならアタシとちゅう出来るーとか思ったでしょ!)
(は?)
(がっ君てばやらしー!)
(全く思ってねーから)
(隠さなくて良いんだよ、男の子だもんねアタシが可愛いから仕方ないし?)
(だから思ってねーって)
(思春期ならぬ発情期ってやつだよね!きゃーアタシの身体狙われてるどうしよう!)
(……………)
あの時ばっかりは本気の本気で面倒臭い、ウザイ女だと思った。
『ハハハハッ!流石名前やなぁ!』
「いや、笑い事じゃねぇだろ侑士アイツの彼氏だし」
『なんやろ、名前って抜けとるとこあるっちゅうか、思い込んだら一直線やからな相変わらずやわ』
「それを分かってて付き合ってる侑士が凄いよ」
『俺は女の子に優しい生き物やねん』
「そうかよ…」
侑士も馬鹿なんじゃないかなとか、女見る眼無いなとか、色々思うとこはあったけど1番は付き合ってられねぇ。
もう勝手にしろよ、そんな視線を投げて俺は眼帯を買う為にコンビニへ走った。
(っつーかコンビニに眼帯売ってんのかな)(目薬もねぇし)(…学校の売店のがありそ、とかそれも普通あり得ねえ)
(20090926)
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