愛し過ぎる、
せやから頭痛?
honey
pulsate.7 解けちゃいました。
息が切れるとか、それにも構わず走ってる道は今思うと真っ暗で、ポツポツある街灯を倍に増やしてくれたらええのにって思った。そう言えばこの辺りは前に痴漢もあったとか、変質者が居るとか、そんな話しもあった筈や。
要らん話しを浮かべれば不安と焦燥は溢れる一方で、喰わえてた煙草を水溜まりに投げ捨てて加速した。
『、ひかる!』
「、」
求めてた声に耳と身体は待ってましたと言わんばかりに直ぐ様反応して、そっちへと反転したら息つく暇もなく飛び込んで来る。
『ひかるー…』
「…例の男は?」
『分かんない…』
分からへん、て事は本人に何かがあった訳ちゃうからまぁええかって。
良かった、その気持ちを膨らませてきつく抱き締めたらゆきが『えへへ』なんて気の抜けた声を出すもんやから、こっちの気も知らんとええ身分やなって呆れた。せやけど呆れる以上に愛しさが込み上げるとか…俺もどうかしとるわ。
「……帰るで」
『うん!』
大袈裟に愛しいと実感したら今度は気恥ずかしさに満たされて、腕の力を抜いた。離れても瞬時に絡められた手を見れば一層愛くるしいって思てしまうけど、それも束の間やった。
『何で…』
「!」
明らかに第三者やと分かる声が聞こえて、ソレが一度耳にしたことあると理解するのは容易やった。いつからそこに居ったのかは分からへん。多分始めからなんやろうけど、俺等の阿呆なやり取りに腹を立てて姿を見せたっちゅう事なんか。
眉間にシワを寄せたあの男は昼間見た姿とは違てた。
「…何や、用でもあるんです?」
『何で2人が付き合ってるんだ…』
『、篠原さん!?』
「は?」
『光、この人前の職場の人…』
「、」
っちゅう事は何や?
ゆきが仕事辞めてから会えへんなって付き纏っとった、とでも言うんか?
まさかゆきの元上司やとは思わへんかったけど、顔見知りやからって「はいそうですか」とは言わへんから。
『社会人と学生の交際なんて所詮遊びだろ?なのに何でさっさと別れないんだ…』
何で何で、繰り返す男は全てが気に入らんらしい。こっちやって同じやねんけど。
「アンタから見ればお遊びな付き合いかもしれへんわ…」
『そうだろ?だったら早く別れたらどうなんだ?』
急に現れて好き勝手に言いたい放題なこの男が嫌悪でしかない。ストーカーっちゅうのはこうも自分を正当化するもんなん?ほんま鬱陶しい。
苛々が込み上げる中、絡めた左手にもっと力を加えた。
「生憎、そうは見えても当人等は真剣なんですわ」
『、真剣?』
「あと何年かすれば結婚する訳やし、俺等から見ればアンタのが邪魔やねん。変なメール送って来たり家に花束持って来たりキショい事するん止めて貰えません?俺もゆきもめっちゃ迷惑してるんですわ」
『光…』
『め、迷惑……』
途端ショックを隠せへん、そんな顔する男が更に気持ち悪さを増した。勝手に頭でゆきと恋愛してたんか、現実を受け入れられへんて?ほんま迷惑やで。
「言いたい事は言うたんで。ゆき、帰るで」
『あ、うん』
「まだこれ以上何やするっちゅうなら警察に連絡するんで」
気色悪すぎて殴る気にもならへん。
ゆきの手を引いて帰ろうと思たのに、
『ま、待ってくれ!光君!!』
呼び止められた声に違和感を感じた。
“光君”て…なんやねん…
『光君は本当にゆきちゃんが好きなのか…?』
「何言うてんねん」
『ゆきちゃんは職場の上司と不倫してるからって退職させられたんだ、なのに…』
「……不倫?」
『あ、アタシが不倫する訳じゃん!何言っちゃってるの篠原さん!』
ゆきに視線を移すと動揺した顔やったけど、この人にそんな甲斐性無いやろうし、況してやこの人を相手にしたいっちゅう物好きも居てへんやろ。
それよりこの男は何を言いたいんや。
『彼氏が居るくせに色んな男にお茶を出して色目使ってだろう!』
『それ仕事だから!』
『嘘吐け!大体俺に彼氏ーって光君とのプリクラを見せつけてきて自慢して…本当苛々するんだよ!』
『な…!良いじゃん別に!篠原さんが彼氏居るのか聞いてきたから見せただけだし!光が格好良いんだから自慢したいのも当然じゃんか!』
『光君が格好良いのは百も承知だよ!君には勿体ないんだ、仕事も出来ないくせに男をだぶらかす力だけは一丁前に身に付けて…ふしだらな女だ!ああ怖い…』
『何それ酷い…篠原さんだって色んな女の子に優しくしてちやほやしてたじゃん!そんな人に言われたくないです!!っていうか篠原さん関係無いし!』
ちょう待て。俺抜きに喧嘩が始まったけど可笑しいやろ。
俺が格好良いとか、ゆきがムカつくとか、この男はゆきのストーカーちゃうんか?
『心外だな!君の様な女にそんな事を言われるだなんて』
『こっちの台詞です!!』
「あーどうでもええんでちょっと」
『止めないでよ光!』
『そうだ光君!彼女より俺の方が光君に相応しいということを教えてやらなきゃいけないんだ!』
『……は?』
「……………」
『仕事が出来てそれなりに人生経験もある、そして貯金だってある。光君には俺みたいな男が良いんだよ』
『何アンタ…まさかアタシじゃなくて光のストーカーだったって訳?』
『当然だろう!何を勘違いしてるんだ!これだから馬鹿なんだよ君は!!どう考えても光君じゃないか!』
『信じらんない!光のストーカーなんて許さないんだから!アンタなんかに光は渡さないし!』
なんや、頭痛がしてきた。
この男がホモとか誰が思うんや。花束も俺宛てとか…あかん鳥肌立って来た。
『何を言ってるんだ!今日だって君は浮気していただろう?光君が居ると言うのに別の男と会って…しかも彼だって中々の良い男だったし。本当に腹立たしいな!』
『蔵の事言ってんの?光だけじゃなくて蔵にまで眼付けてたとか超信じらんないんだけど…!』
『信じられないのは君だ!』
勝手にして下さい。
俺は言葉が無かった。
(どんな落ちやねん)(とりあえず寝込ませて欲しいねんけど)
(20091104)
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