頭に浮かぶのは
ただ1人。
honey
pulsate.6 気付いちゃいました。
俺も手が空いとる時はゆきの事気に掛けるから、財前はなるべく眼離したらあかんで
眉を寄せた部長は今から電話してみるわ、と何も買わんとコンビニを出て行った。部長が居るなら大丈夫かと安堵したけどやっぱり気にならん訳やなくて。
「メール、送っとこか…」
レジの死角で携帯を取り出して、何でも無い顔で“仕事見付かったん?”とメールを打てば直ぐに“まだだけど今から蔵と会う”とか。とりあえずは大丈夫なんやと息を吐いた。
「あーあ…」
客が居らんのを良い事にレジに凭れて、項垂れてみては早よバイトが終わらんかなぁて携帯を無駄に開いたり閉じたりを繰り返した。
傍に居れば少しは気も楽になるのに…って、自分がこない過保護やったんかと思い知らされて苦笑も浮かばへんかった。
会いたい、
いつもは“我慢”出来たのに逢いたくて仕方ないとか…何処のガキやっちゅう話しやで。そんな俺の気持ちも知らんとあの人は部長と呑気にのんびり話してるんやろう。ほんま、無いわ。
『財前君お疲れ!上がってくれて良いよ』
「どーも…」
夕方、月が出て来たくらいにひょっこり現れた店長に頭を下げたものの。ダメ元で聞いてみようかなって、言葉を続けた。
「店長、」
『、どうした?』
「もうシフト決まってるのに申し訳無いんスけど…明日から1週間、休み貰えませんか」
『………………』
「無理、スよね」
聞いてみただけやし、シフトを組む前ならともかく今更あかんのは分かってる。せやから気にせんで下さい、と裏へ続くドアに触れたのに、
『勉強が忙しいとか?』
「あ、いや…」
『じゃあ彼女だな』
「、」
詳細を問う店長にハッキリ肯定出来る訳が無い。彼女を理由に1週間も休みをくれとか、バイトと言えど雇われてんのに何をふざけた事言うてんねんって感じやし。せやからって、否定するにも出来ひんし、何の関係も無い店長に“彼女がストーカー被害に遭うてるんです”とか言う気にもなれへん。
愛想笑いだけ浮かべてとっとと帰ろうと思うと、ポンと左肩に軽く体重が乗った。
『財前君は今までちゃんと働いてたし、急なシフトも嫌な顔せず出てくれたんだ』
「……………」
『1週間、ていうのは何か問題が生じてるってことだろう?理由もなく休むタイプじゃないことくらい分かってる』
だから、来週からまた宜しく頼むよ?
笑顔でポンポンと肩を叩かれたら、店長の人の良さに謝意が溢れて「有難うございます」と頭を深く深く下げた。ぶっちゃけ急なシフトも時間があったから入っただけで、ほんまは面倒臭いって思ってたのにそれすら申し訳無い。ほんの短い間しか顔を合わせてへんのに、持ちつ持たれつの関係も成立するんやなって、将来はこんな環境で仕事がしたいと切に思った。
「もしもし?」
裏の更衣室で煙草を喰わえて、着替えをしながらゆきの携帯に着信を入れる。今何処に居るんか何してるんか聞きたくて、明日からバイトは休みやって伝えたくてコール3回を逸る気持ちで待ち侘びた。
《……ひかる?》
「何やその声」
《だって…》
あっという間やのに長く感じたコールの後、聞こえて来た声は受話音量最小の様な小さいか細い声で。仕事が見つからへんくてまた凹んでるん?
ちゃんと電話に出た事で安堵を浮かべた俺は笑殺してたのに。
《あのね、さっき家に帰ったらね、玄関の前に薔薇の花束が置かれてあった…》
「、は?」
《それでね、またメールが来てね、今度は“浮気女”って…》
「……………」
なんやねんそれ。
花まで贈ったのに自分のモノになれへんから今度は浮気?寝言も大概にせえっちゅう話しやろ。
例の男の顔を過らせて、あの時話しすれば良かった、めちゃくちゃ後悔した。
「ゆき、今何処に居るんや?」
《何か、気持ち悪いから、早く光に会おうと思って、コンビニに向かってる》
「分かった」
《でも待って!》
「え?」
《さっきからね、後ろに誰か居る気が、する…》
「―――――」
ゆきに何かあったら、
あの男が居るなら今度こそぶん殴ったる、
その思いを噛み締めて俺は裏口のドアを勢い良く開けた。
(多分一発じゃ気が治まらへん)(殴って文句言うて、最後には警察突き出したるからな)(こないムカついてんのは初めてかもしれへん)
(20091101)
次回、必死過ぎる光くんにつきキャラ崩壊注意!
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