honey | ナノ


 


 03.



優しい訳じゃない
愛しいだけ。


honey
pulsate.3 完食しちゃいました。


前に誰かが言うてた。
初めて身体を重ねた時は緊張感とか独占欲とか溢れるけど、何度も何度も繰り返すと単純に飽きるって。


『ひか、る……』


せやけど俺は飽食するなんやあり得へんくて、ゆきとなら1日中、毎日出来ると思う。交わる度にずっとこの顔を見てたいって思った。それを愛しいとか愛くるしいとか表現するならハッキリ言うて愛しい以上に愛し、過ぎる。


「………――――、」


いつ寝てしもたんかも覚えてないけど気付いた時は下着1枚で寝起き特有、身体が妙に重くて白く明るい外に怪訝を投げた。

怠い、そう思いながら身体を起こして煙草を取ると隣の部屋から味噌の匂いが副流煙と一緒に流れ込んで来る。
味噌汁…?あー、そうや今日から暫くあの人が居るんや。
匂いに誘われるようにダイニングキッチンへ行くと罰が悪そうな顔で振り返った。


『……おは、よ』

「なんやねんその顔」

『……………』

「もう出来たん?コレ吸うたら食えるん?」


煙草を喰わえたままソファーに引っ掛けたジャージを履いて、Tシャツは探すん面倒臭いからもうええか、なんて腰を下ろすと俯き加減でおたまを片手に寄って来る。


「火、点いたままやけど」

『………、ごめん』

「は?」

『ごめん光…!』


喧嘩した覚えもなけりゃ怒った記憶もない、寝起き早々何を言い出すんやこの女。
それより鍋大丈夫なん?


『アタシ、ちゃんと就活するって約束したのにさっき起きたばったかりで、』

「…………」

『もうお昼なんか過ぎて2時回ってるし、それでも今すぐに出掛ければ良かったんだけど…でもご飯一緒に食べたくて…』


そういう事か。就職を前提にこの家居ってええ言うたから早速サボってごめんなさい、か。


「……阿呆らし」

『え、阿呆らし、って…』

「俺、今日バイトも休みって言わへんかった?」

『言ってた、けど』

「久しぶりに休みが合うたのにそういう時間、堪能させてくれるんが普通ちゃうん」

『ひかる……』

「早よ就職先決めたいなら飯食うたあと出掛けたらええけど」


ほんまはあの人の事を考えるなら今すぐ行って来いて言うべきなんやろうけど。今日は“一緒”を勝手に考えてたから今更1人とか、面白ない。


『もう光好き…!』

「ウザイくらい知っとる」

『言い足んないの!好きったら好き!』

「っちゅうか鍋」

『ああっ!!やばい爆発する!』


爆発て。吹き零れるとか火事やなくて爆発とかどういう事やねん。あ、せやけど味噌汁を沸騰させ続けたら爆発するとか聞いたことあるような…ま、どうでもええわ。

慌ててガスの前に走ってたゆきにやっぱ阿呆やなって思て、その阿呆さが見てて面白いなって。
煙草の灰をを全部落とした時にはテーブルに料理が並んだ。


「朝昼兼用だから」

『それはええけど今日は大丈夫なん?』

「あんまりアタシを見くびらないでよ光クン!」

『フーン…』


白米に味噌汁、卵焼きとサラダ、そんな簡単な料理やけどいざ口にするのを渋りたくなるのは今までゆきの手料理に良い思い出が無いせいや。
初めて料理した時はグラタンとミートソースで無駄に見掛けが良かった分、勢い良く口に入れたけど瞬間的に鳥肌が立ってむせたのを鮮明に覚えとる。見る限りはファミレスより美味そうやったのにグラタンはオイスターソースの味がするし、ミートソースは酢豚みたいに酸っぱかった。こういうのを殺人的料理っちゅうんやと思った。


『さぁさぁ、早く食べてみて?』

「……………」

『…どう?美味しい…?』


今日はやけに自信満々な顔しとるし、難しい料理でもないから大丈夫かなって思たけど。


「………ぶっ!ゴホッゴホッ、」

『ええ!何で!』

「何で、はこっちの台詞や!何入れたんや…」


味噌汁を口にした瞬間、日本人なら馴染みある味噌汁とは思えへん異様な味が広がった。
ダシを入れ忘れたとしても具を茹でて味噌を溶かすだけやのに何やねんこの味は…


『だしの素が無かったからスープの素入れてー、隠し味に醤油とみりんと豆板醤?』

「死ね」

『ひ、酷い……!そこまで言わなくても良いじゃん…!』

「ほな卵焼きは?何入れたんや」

『卵焼きはウインナーのすりおろしたやつ入れたくらい』

「ウインナーはすりおろさへん」

『えー…アタシなりに工夫してみたのに…』

「まともなモノが作れるまでは余計な事すな阿呆」


ほんまに普通の味噌汁なり卵焼きの作り方を知っとんかは定かやないけどあの人はあの人で努力しとるらしい。それは認めてやるべきなんか、せやけど認めたくない。

とりあえず、気持ち悪いことこの上ないけど全部捨てるとなると食材が勿体ない訳で、眉間に深いシワを作りながら食することにした。


『アタシね、光と結婚するまでには料理上手になるからね』

「期待は出来ひんな」

『大丈夫だって!アタシ頑張るもん。料理が美味しいと仕事終わった旦那さんは早く家に帰りたくなるんでしょ?』

「あーよう聞くなそれ」

『だから頑張るの!旦那さんに“嫁の料理しか食べたくない”って言って貰うのが夢なんだー』

「……あほ」


食事中そんな話を聞いてると、不味い筈やのに自然と箸が進んで驚いた。


『っていうかさ、昨日光の家に来る間誰かに尾けられてた気がするんだよねぇ…』

「自意識過剰ー」

『やっぱ勘違い、かな?』

「勘違い勘違い。それよりマヨネーズ取ってくれへん」

『マヨネーズ?』

「卵焼きにはマヨネーズやろ」

『えー醤油でしょ普通…超邪道』

「ゆきの料理が一番邪道やっちゅうねん…」


(夜は外食しよ)(そう思たけど明日から暫くはあの人の料理、)(何でやろ。そこまで嫌やと思わへん)



(20090903)


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