03.
消したいのに消したくない、
好きを止めたいのに止めたくない
矛盾した気持ちは愛してるから
too near
heart.3
Though it is easy when it is
possible to come to hate it
冗談でも抱き合うオサムちゃんと名前を見ると鼻の奥がツーンとした。
俺とオサムちゃんが反比例の恋愛をしてても、やっぱり羨む気持ちは隠しきれん。“夫婦漫才”っちゅう単語は強がりでしかなかった。
せやけど俺は、彼女の傍で彼女の恋愛を見届けようって決めたから。俺の隣は居心地ええんやでって、名前が笑てたらそれでええと思てたんや。
『くらー』
「うん?」
『暑い……』
部活が始まって間もなく、名前はベンチに崩れ込むようにだらけて。タオルに顔を埋める様は『もー限界』ってのがひしひしと伝わって来て笑いが出る。
「ホンマ夏に弱いなぁ」
『暑いの嫌いだし』
「この間まで寒い寒い言うてた気がするけど」
『寒いの嫌いだし』
「我儘なお嬢様やな、名前らしいけど」
『可愛い我儘は言わなきゃ損だもーん』
「こらこら、自分で言うもんちゃうやろ?」
『蔵だって可愛いと思ってるくせにー』
まぁそりゃ、当然ながら思っとる。趣味やタイプが人それぞれやとしても好きな女の子の我儘っちゅうのは自分に甘えてくれてる証拠やねんから嬉しいし可愛いって思う。
況してやそれが“お願い”になれば叶えてもやりたくなる。男って単純やからな、喜んで笑って貰えるなら頑張ってしまうんやで?
「名前には適わへんな」
『適うのは陽平ちゃんだけだもんね』
「うん…せやな」
『あーあ、やっぱり今日も会いたかったなぁ…』
「……………」
身体を起こして空に浮かぶ雲を見つめる名前を見たら自然と愁眉になる。
この位置を選んだのは俺、こんな顔見せたらあかん。必死で平静を作る俺は惨めに見えるんやろか…。
彼女の願いなら何でも叶えてやりたい、せやけどその願いは叶えたくない。次にまた早く会えるといいなって思いながら叶えて欲しくなかった。
「名前、」
『うんー?』
「あっち。オサムちゃん呼んでる」
『あっ、本当ー!行って来るね』
「うん」
ホンマはな?
ホンマは行って欲しくない。
ホンマは、寂しい。
名前がオサムちゃんに飛び付く姿も彼氏の話して綻ぶ顔も見たくない。
せやけどそんなこと言えへんかった。
誰より彼女の幸せを願ってるくせにそうやない、そんな矛盾した想いを理解しろって言うのが間違いやし声に出すつもりも更々ない。
せやから今日も俺は名前の笑顔を見て愛を潜める。
(20090803)
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